「真の味は骨にしみこんでいるものだ」という言葉が好きで、 レシピ内で時々使っています(アジ(鯵)を食べる、 長崎ちゃんぽん、スペアリブ、 ラーメンの作り方等)。 鶏がらスープや、牛のストックを煮出していて、 しみじみその言葉の重みを感じます。
この言葉は、ラス・ビハリ・ボースという、インドの独立運動家が発したものです。 「独立運動家と真の味に何の関係があるの?」 それは何を隠そう、ラス・ビハリ・ボースがいたからこそ、日本初の純印度式カリーが生まれたのです。
詳しい話は新宿中村屋のウェブサイトをご覧ください。
「真の味は骨にしみこんでいるものだ」この表現をはじめて見たのは、邱 永漢の『食は広州に在り』でした。
ある寒い日の夕時、邱さんは提灯の灯りにつられてフラリとおでんの屋台に入りました。
豆腐にしても里芋にしても、こんにゃくにしてもガンモドキにしても、まずくはないのですが何か一味足りないと感じた邱さんは、 その原因を探りました。
そしてどうやら、おでんの風味がピンとこない理由は、スープにあるという結論を導き出しました。 それぞれの味を活かすには、昆布や鰹節程度のダシでは不十分で、鶏ガラや豚骨でとったスープが必要だと考えたのでした。
そして邱さんは、
ビハリ・ボース氏もいっているように、「真の味は骨」にしみこんでいるものだからである。
と書きました。
これをいたく気に入ってしまったのが、オイというわけです。
さて、この度入手しました子母沢 寛の『味覚極楽』に、「真の味は骨に<印度志士 ボース氏の話>」というページを見つけました。
日本のライスカレーはどこへ行っても随分まずい。 それあ思い切ってまずいものです。 ただ辛くて黄色ければカレーだと思っているのがいけないのです。 本当のカレーはそんなにからいものではない、 食べる時にすうーっと甘くて、後から少しずつ辛味が舌に沸いて来るのがいいのです。
とボース氏。 そしてついに「真の味」の原典にあたることができました。
肉にしても魚にしても、骨ごと使わなくては本当のうま味は出ません。 あの骨から出る味というものは、どんな調味料を使っても真似のできない、いいものです。
今回はそんなボース氏流インドカレーの作り方です。
カレー作りにおいて一番大切な材料は何だと思いますか?「カレー粉?スープ?」
ボース氏は、バターだ、といいます。
彼は出来合いのバターでは満足できずに、新宿中村屋の創業者であり義父でもある相馬愛蔵氏へお願いして牧場を作ってもらい、 そこでとれる牛乳からバターを作り、カレーに使っていたそうです。
そんなマネできませんから、デパートを回り、良さげなバターを買ってきました。 これを丸ごとひとつ、中華鍋にあけて、とろ火にかけます。
バターが溶けた頃、鶏を一羽丸ごと放り込んで、煮ます。 ちょんとつつくと、骨と肉がすぐに離れるようになるまでじっくりとバターで煮込むのです。 キッチンは、やんごとなき香りに包まれます。
※鶏は大きめのヒナの、一羽四百目位のがよいとあります。
今回はローストチキンでも作るかのように面白がって一羽丸ごと煮込みましたが、 どこにも「丸ごと」という記述はありませんし、煮込みにくくもありますから、切り分けた鶏を煮たほうがよいと思います。
煮た鶏をバターから引き上げ、切り分けておきます。 切り分け方は鶏のさばき方をごらんください。
鍋に残る、いつのまにか透き通ったバター油へカレー粉、塩を加えます。 あとで調整できますので、大量に入れすぎないようにしてください。
カレー粉を入れたとたんにバターはモワッと泡立ちます。 そこへ切り分けておいたジャガイモ、タマネギを投入し、十分柔らかくなるまで煮込みます。
「バターの海」を泳ぐジャガイモとタマネギの美しさったらありません。 カレー粉により次第に黄金色へ染まってゆく両者は、今回作るカレーの成功を蠱惑的に暗示します。 それにしてもバターで食材を煮る、というのははじめての経験です。 焦げ付きの恐れもないし、良い香りだしで、とてもよい方法だと思います。
野菜が柔らかくなった頃、ここへ何かしらのスープを注ぎ・・・込みません。
注ぎ込むのは、湯です!
ボース氏のカレーはブイヨンを必要としないエポック・メイキングなカレーなのです(そりゃあそうですよね。 だって鶏を一羽分煮込んでいるんですもの、 鶏の肉や骨から真の味がにじみ出てくるに違いありません)! 素材がヒタヒタになるように注いでください。
ここで薬味を加える、とありましたから、ニンニクとショウガのザク切りを投入しました。
香料を加える、とありましたから、自家製ガラムマサラを投入しました。 しばらくゆっくりと煮込みます。 水かさが減ってきた場合は、 その都度ヒタヒタになるように湯を足します。
頃合をみて、煮込んでのけておいた鶏を骨付きのまま加えます。 このときはじめて少し火を強めます。 このまま煮続けましょう。 「この前後に約二時間半を要します」とボース氏は言います。
煮込んでいるうちに野菜は徐々に溶けてなくなり、鶏はグズグズになっていくハズです。 一口味見してみると、まさにはじめに甘みの香るとても美味しいカレーだということがわかるハズです。 そしてあとから香料の辛みがわずかにはじけます。 この柔らかさは、バターによるものだと察します。
塩味が足りないようだったら塩を足し、パンチがほしければガラムマサラを足します。 サラサラなカレーがよければ、あまり煮詰めずに仕上げますし、そうでない場合はトロミがつくまで煮詰めます。
今回は、盛り付け用の鶏は別にのけておいて、野菜や鶏肉の溶け込んだカレースープをこしてからサラサラに仕上げました。 鶏肉の半分はスープのダシとして割り切りました。
皿にご飯を盛り、その横へ盛り付け用の鶏を配置し、サラサラカレーを流し込んだのがページトップの写真です。 本来は、ご飯とカレーを別々に用意して、カレーをご飯の上に少しずつスプーンでかけながら食べるのが良いそうですが、気のきいたカレーの器がなかったので、いつものように盛り付けた次第です。
以上、ラス・ビハリ・ボース風カレーでした。 あるとき子母沢さんは中村屋で、ボース氏自身の手によって作られたカレーをご馳走になったそうです。
骨付きの鶏がたくさん入っていて、汁はサラサラで、溶けたジャガイモがかすかに残っていたそうです。 まずさーっと甘みがして、それから辛味がきたといいます。
今回のカレー作りも学ぶことが多いものでした。 このカレーをベースにいろいろとアレンジできそうです。 バターの使い方は目からうろこでした。
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11/01/12