11月はじめの頃でした。
なだらかな登り道を運転中、ちょうどゆるいカーブに差し掛かったところで突如何かがコロコロと転がってきました。
あせって急ハンドルを切り、あれは何だったんだろうと考えようとしたのもつかの間、今度はその物体がいくつも転がってきているではないですか! さらにその後方からも次々と・・・。
ただ事ではありません。 とりあえず車を路肩に止めました。
転がってきている物体は、柿でした! 柿が次々に転がってきているのです。 たとえ柿とはいえど、運転中に前方から何かが沢山転がってきてはドライバーも驚くハズです。 現にオイは車を止めてしまいました。 事故につながりかねないと考えたので、車のハザードをつけて、柿をひろいはじめました。
すると柿の後方から、とても大きな紙袋を持ったおばさんがすごい形相で走ってきました。 「待ってー」と叫んでいます。
大体の話は読めてしまいました。 おばさんは柿を拾い集めているオイの姿を見つけて少しホッとした表情を浮かべつつも恥ずかしそうに「すいませーん!」と叫びながら走ってきます。
なんとか二人ですべての柿を拾い終えました。 おばさんはこの坂道の上に住んでおり、柿を沢山もいできて、車のトランクからおろそうとしていたところうっかり柿をこぼしてしまい、 それにはずみがついて次々と柿が転がっていったという話でした。
お礼として山ほどの柿を頂いてしまいました。 この柿は渋柿であり、干柿にすると美味しいということでした。 作り方も丁寧に教えていただいたので、 これも何かの縁、干柿を作ってみることにしました。
干柿に使われる柿は、渋柿です。
季節になると、あちこちで柿が木になっているのを見かけます。
今回用いるのは、上にも書いたように運命的な出会いをしたおばさんの渋柿になります。
干柿作りを始める前に、この柿はほんとうに渋いのかどうか、ひとつ手に取りかぶりついてみました。
紛れもない渋柿でした。 柿の甘みは感じられるものの、舌にこびりつく渋さがあります。
でも普通の柿と渋柿って、外見上で見分けがつくものなのでしょうか? おばさんに聞いておけばよかったな、と少し後悔しています。
※酒屋から空になった樽を買ってきて柿をきっちり詰めておくと渋が抜けるそうです。
又、米櫃の米の中に埋めておいて熟柿(じゅくし)にして食べたり、灰のあく汁を混ぜたぬるま湯の中に一晩浸しておいたりして渋を抜く方法もあります。
さらにヘタをとった柿を鍋に入れ人肌程度の湯を注いでフタをし、鍋を風呂に入れ温度を保つと一晩で渋が抜けます(あわし柿)。
渋柿を見てみると、どれもが右のように枝付きで切り取られています。 しかもその枝はすべてT字型になっています。
これは干す時を考慮して故意にT字型に切り取られているのである、とおばさんは言ってました。 なるほど。
渋柿の皮をひとつひとつむいていきます。
もちろんT字の枝は切り離しません。
おばさんいわく、柿の先端部の皮を少しだけ残しておくのがコツで、ここに柿の渋みがたまるのだそうです。 よって先端部は食べません。
多分4、50個は渋柿の皮をむいたと思います。 さすがに疲れました。 とここで気づいてしまったのですが、50個もの柿を一体どこに干せばよいのでしょうか?!
我が家のベランダにそんなスペースはありませんし、万が一干せたとしても、洗濯物が干せなくなってしまいます。
困りました。 皮をむいていないならばまだしも、全部むいてしまったのですから・・・。 こんな時、おばさんならばどうするのでしょうか、携帯番号を聞いておけばよかったなと後悔しています。
近所の人に干柿作りませんか?とすすめてみましたが、どの家もすでに干柿作りの真っ最中で間に合っています、ということでした。 仕方がありません、全部干そうではないですか! 洗濯物に関しては何か対策を考えることにしました。
渋柿のT字の部分にタコ糸を結びつけて、もう一歩も同じように結び付けます。 ちょうどアメリカンクラッカー型になるハズです。
これを軒先に吊るし、乾燥させればもう干柿のできあがりとなります。
ちなみにアメリカンクラッカーとは何かというと、昔あったおもちゃでガチガチガチと玉をぶつけて遊ぶものです。 詳しくは検索してみてください。 ちなみにオイは名前を覚えていませんでしたので、 「ボール 糸 2つ カチカチ」で検索してアメリカンクラッカーにたどり着きました。
で、一体どのくらい干せば干柿になるのか? 日を追って説明してみます。
まず第一日目。 皮をむいて干しはじめたのは11/7のことでした。
まさに柿の皮をむいて干した、という質感です。
少し色が濃くなったようです。 若干しおれました。
時折風に吹かれてクルクルと回転しています。
急に冷えました。 雨模様です。 軒先に干しているので雨は防げますが、湿気てしまうのではなかろうか?と心配になりましたが、多分それも味になるのだろうと考えました。
だいぶシワシワなってきました。 触ってみると、若干柔らかくなっています。
冷えこみました。 質感的に、そろそろひとつだけ食べてみようかな、という気になってきました。
六日目にして「これぞドライフルーツ!」という照りがでてきたので、とりあえず食べてみることにします。
ページトップの画像がこの六日目の状態です。 かじってみると、グニャリと柔らかく、中身はトローリレアな状態でした。 優しい甘みがして、食感がその甘さを増幅させているようです。 渋みは一切ありません。 あれだけ渋かったのに、かなり不思議です。
そういえばおばさんは、柿をもめといっていました。 それは食べる直前なのか、干している間中ずっとなのかは聞き逃してしまいました。 ちなみに今回はもんでいません。
さて。 美味しい干し柿を食べることができましたが、オイのイメージしている干柿はもっとなんちゅうかこう、シワシワで、所々白い粉が吹いているような状態です。
そうなるまで観察を続けたいと思います。
干し始めて1週間が経過しました。
干し始めて2週間目です。
ついに白い粉がふきはじめました。 理想的な展開です。 この白い粉は柿の実の糖分が結晶化したものになるそうです。
白い粉は少しずつ増えてきて・・・。
干しはじめて18日目にしてイメージどおりのシワシワで白い粉の吹いた干柿になりました。 これにて観察を終了したいとおもいます。
食べてみると固く、水気が飛んで甘みが濃縮されていました。 まさに干し柿という外見をしています。
辻留 ご馳走ばなしに柿の味という項目があり、このようにあります。
日本らしい自慢のできる果物は人それぞれに違うでしょうが、中国と日本だけにあると聞く「柿」であろうと信じます。
柿は盛りを過ぎると、太陽に当てて干した干し柿の茶っぽい色調は独特のもので、さらに甘みが表面に白い粉となって浮き上がってまいり、時には真白くなる柿もあります。
中国のたしか蘇州でしたか、道の両側に柿の木が並んでおり、行けども行けども柿の木ばかりと聞きました。
その柿を干し柿として、ふいた白い粉だけを集めてお菓子にしたものがあるそうで、とてもおいしそうであります。 その名も「柿霜餅」というそうで、舌の上にのせると、 すうっと消えてゆくようなおいしさというお話をうかがい、ぜひ一度と思いながら、その味はまだ知りません。
更新日:23/05/31
公開日:09/11/30