忘れられない食べ物というものがあります。
学生時代、金が尽き、食料が尽き、さてどうやってあと半月暮らそうか、というような切羽詰った状態によく陥りました。
金はなくても腹は減るものであり、空腹をどうやってしのごうかと、試行錯誤を繰り返しました。 行きつけの中華料理屋に事情を話し、 マーボー丼のマーボとご飯を超大盛にしてもらい、それを昼の14時頃食べて、朝昼晩飯を1食でまかなおうとしたり、友人知人を訪ね歩き、ご飯を食べさせてもらったり。 彼女の親からの仕送りである食料をわけてもらったり、20分以内に完食したら無料という超大盛のカレーをムリして食べたり。
自炊する場合は、パスタ麺の安いのを買い込んで、一気に茹で上げ、醤油で炒めてワシワシ食べたり、米を炊いて、塩のみで食べたり。 さらにお金がなくなってくると、 一日の食費が300円とかいう状況になり、コンビニに出向き、100円で買えるパンの中でもできるだけ大きくて分量のあるものを買い、100円の割には分量のあるポップコーンを買い、 もう百円は、少し栄養面を考慮して、野菜ジュースを買う。 なんて食生活を、長いこと続けたことがあります。
今となってはよい思い出ですが、ツラかったのも事実です。
今回作る3品は、思想家、詩人と幅広い分野でご活躍される吉本 隆明氏思い出の料理です。 さあしみじみと味わってみましょう。
※吉本さんは2012年3月16日、肺炎のためお亡くなりになりました。 心よりご冥福をお祈り申し上げます。
まずは牛レバーをカツにしてみたいと思います。 これは昔「肉フライ」と呼ばれ、 東京月島にしかなかった料理で、戦前、トンカツが一枚15銭だった頃、レバカツは2銭だったのだそうです。 当時小学生だった吉本さんは、なけなしの小遣いで肉フライを一枚買い、食べていたのだとか。
オイは家でよく鯨カツを作るのですが、そんな感じでレバカツを作ってみたいと思います。 まずは牛のレバーの塊を買ってきて、薄く切ります。 臭味が気になる方は、前菜用レバーや、レバニラの時のように血抜きをしてみたり、 しばらく牛乳に漬け込んでおいてもよいかと思います。
レバーに、とんかつのように衣をつけて、揚げます。
※レバーに小麦粉をまぶし、溶き卵をくぐらせて、パン粉をつけるのです。
程よく揚げたあつあつのレバーに串を刺して、サブリとソースに漬けて、 からしを塗って食べます。 お好みにもよりますが、レバーはなるべく薄めに切ったほうがよいです。 少し叩いて伸ばしてみてもよいかと思われます(レバカツもどうぞ)。
※東海林さだおの『スイカの丸かじり』に『レバーフライの真実』という話がありました。 これによるとレバーフライは「もんじゃ焼き」で知られる東京都中央区月島の、たった4軒のお店だけでしか売られていないそうです。
そのなかのひとつである『元祖レバーフライひさご家』は持ち帰り専門の店で、注文すると、即揚げてくれるそうです。 ひとつが110円。 揚げてすぐソースに浸し、 からしをつけて食べます。 ひさご家のレバーフライは3つのレバーのカケラをひとつの串に刺し、細かいパン粉をつけて揚げたもので、レバー自体の厚みは1ミリ、衣をあわせて7ミリ厚になるそうです。 食感はパキッとしていてほとんど衣とソースの味だといいます。
ひさご家から歩いて6、7分のところに「佐とう」という店があり、ここのレバーフライはひさご家よりも2回りほど大きいそうです。
さて次は、吉本さんのお母様がよく作ってくれていたという、ジャガイモのソース煮込みをこしらえてみたいと思います。 作り方はいたって簡単。 まずはジャガイモ のぶつ切り、タマネギ、油揚げのみじん切りを用意します。
それらを鍋に入れ、ソースをドボドボと注ぎ込みます。 そして水を追加し、薄めます。 これを汁気がなくなるまで煮詰めるだけ。
ご飯の上に乗せて食べます。 しみじみ、美味しい。 当時の吉本家では、隆明さんを含め子供たちに人気のメニューだったのだとか。 吉本さんは当時を思い出しながら、何回も作っては みたけれど、お母様の味付けのように上手く出来たためしがないのだとか。
最後にタマネギご飯を作ります。 これは吉本さんが20代で結婚したての頃、金も職もなく、4畳半のアパートで、ビニールの風呂敷を食卓代わりにして、奥さんと向かい合ってひっそりと食べていた 料理なのだとか。
まずはタマネギを薄く切り、油をひいたフライパンでサッと炒めます。 あくまでもサッとであり、炒めすぎないことがコツ。 ちなみにタマネギの代わりにネギ でもよいそうです。
器に盛り、上からカツオ節をふりかけます。 仕上げにソースをかけて、食べます。 ソースがなければ、醤油にしときます。
以前、「料理の鉄人」でおなじみ道場六三郎氏と吉本さんが対談する機会があり、このタマネギご飯の話をしたのだそうです。 道場さんは「それは絶対に美味しいですよ」と賛成もしましたが、 タマネギご飯の上にさらに炒り卵でも乗っけると栄養面でも申し分ないとおっしゃったそうです。
吉本さんは「なるほどー」と感心もしましたが、本心はどうも納得がいかなかったらしく「別に栄養のことばかり細かく考えて毎日料理をしていたわけではないですから」と言ったのだとか。 同感。
以上、しみじみソース料理3品でした。 本コンテンツを作るにあたり、四方田犬彦著『ラブレーの子供たち』 内「吉本隆明の月島ソース料理」を熟読させていただきました。 誠にありがとうございました。
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07/05/28