「喰え〜バリバリ喰え、喰うヤツはキバれるばってんな、喰わんヤツは何もでけん!」
95歳で大往生を遂げた祖父がよく口にしていた言葉です。
祖父自身よく飲み食いする人であり、子供の頃はよく膝に乗せられ無理矢理色んなものを口にねじこまれたものでした。 今その伝統は我が子供達にも引き継がれようとしています。
さて、先日何気に録画しておいたBS『黒澤明の美味しいご飯』を観たところ、大変興味深い番組でした。
ハングリーってこの頃よく言うけどさ、本当に腹が減ってると、 いいアイデアは浮かばないもんだよね。
「世界のクロサワ」は食にも強いこだわりをみせました。
うまいもののわからないやつは想像力に欠ける。
おいしいものを食べながら機嫌が悪くなるやつなんていないよ。
役者やスタッフには食べたいだけ食べさせて飲みたいだけ飲ませろ。 いい気持ちで撮影してロケが一日早く終わればメシ代なんてすぐ浮く。
黒澤語録です。 今回は番組中で紹介された二品を作ってみます。
料理も文化だから、わからなきゃいけない。 助監督は特に消えもの(撮影で使う料理)のこともあるから、料理ぐらいできないと駄目だ。
そう言われて当時助監督だった小泉 堯史さんが黒澤さんのためによく作っていたのが、監督お気に入りの揚げおむすびでした。
まずはまん丸おむすびをこしらえて、全面に片栗粉をまぶしつけます。
おむすびの表面がキツネ色になるまで、まるで揚げるかのようにコロコロ焼いていきます。
仕上げに表面へ醤油を塗りつけて完成です。
アツアツをかじるとカリッカリとしていて醤油の風味が油とよくなじんでいます。 ラード(ヘット)などコッテリめの油を使うほうが旨いもんです。
黒澤監督の長女和子さんいわく、
「これを食べさせると普通のおにぎりのほうが良いという人もおりますが、とにかく父は食べ物に油っ気さえまとわせれば、何でも飲み込んでくれたんです」とのことでした。
黒澤監督は朝昼晩、そして夜食と一日に四回食事をとりました。 好んで食べていた夜食がダックウッドサンドです。
昔アメリカに『ダックウッド』という漫画があり、その中に出てきたパンとパンの間にテンコ盛りのハムが挟み込んであるサンドイッチがうらやましくて仕方がなかった監督は、
ある日突然ダックウッドサンドを作ってみよう!と言いだしました。
ありとあらゆるハムを買ってきて、
顎が外れるぐらいどんどんパンに乗せ、
時折チーズも挟んだりしつつ気がすんだところでパンで閉じます。
辞書並の厚さをほこるサンドにカブリつき、ウイスキーを飲みながらアメフトを見るのが至福の時でした。 ダックウッドサンドとウイスキー。 これが黒澤監督の愛した夜食です。 夜食を食べながら絵を描き本を読み、映画へのイマジネーションを膨らませていきました。
ちなみに監督は切り分けたりせずに、そのままかぶりついたといいます。
朝食は体の栄養。 夜食は脳みその栄養になる。
ステーキの上にウナギのかば焼きを乗せ、カレーもぶちこんだような、もう勘弁、腹がいっぱい、そんな映画が撮りたい。
88歳で亡くなるまで活躍を続けた黒澤監督の力の源は豪快な食卓にありました。
12/11/05