酒亭のカウンターで一人飲んでいた時の事です。 景色に同化していてしばらく気づきませんでしたが、目を凝らせばいちばん端に、女性がひとりうなだれています。
ピクリともしません。 徳利が三本転がり、半分残ったワインボトルが見えます。 店の人もそっとしといてあげているのでしょう。
しばらくし、女性は何か言葉を発しました。 はじめはモゾモゾ聞き取れませんでしたが、次第に声はハッキリしてきて「寝ちゃったー」と連呼しています。
店主と話しておりますが、そのやりとりを見る限り、常連さんなのでしょう。
「今日は止めときます、シメ?」と聞かれた女性は「ちょーだい」と答えまして。
しばらくし、お盆に乗せられ運ばれてきたのは、かのTKG、すなわちたまごかけごはんでした。
「それではいきます」と店員は宣言し、女性の傍らに立ってTKGの調合を始めました。 器のフチで卵をカン、と割り落とすやいなや「カタタタタタ・・・」とけたたましく菜箸でかき混ぜます。
15秒ほどかき混ぜた後「ッターン!」と糸を切り、次に「失礼します」とご飯をはじって穴を開け、そこへ溶き卵を流し入れます。 そして一歩下がって「どうぞ!」と役目を終えたのでした。
女性は無言のままそこへ醤油を二周回しかけ、軽く二三度混ぜた後「ズロロー!」と勢いよく掻っ込みました。
その姿の潔さといえば、思わず呑むのも忘れる程でした。
風のように去った女性に触発されて、ここはひとつオイもTKGでシメてみようと思ったんです。 そこで店員さんに「TKGお願いします」と伝えると、「普通ので良いですか?」と返ってきたんです。
「他になにがあるんです?」と聞き返したのは言うまでもありません。 すると「デラックスバージョンがあります」と言われたからには、頼むしかありません。 「ではデラックスを」
しばらくするとお盆に乗せられTKGDXは運ばれてきました。
「それではいきます」が始まるのを息を飲んで待ちましたが、店員さんはお盆を置くなりキビスを返して引き上げました。
するとカウンターごしに店主が食べ方を指南してくれまして、まずはご飯に穴を開け、
そこへ卵を落として
軽くまぜ、醤油を回しかけるのではなく、
みりんと醤油で柔らかく煮込んだ牛筋肉を乗せるんです。 シメだというのになんちゅうボリュームなんでしょう。
辟易しながら口にすれば、これがなんとも牛丼的に美味であり、スルスル自分でも不思議な程楽に胃に収まってしまったのです。
人により様々なこだわりがあると思います。 オイはもっぱら「卵黄のみ」を用いる濃厚タイプが好みでして、
ご飯に落として割る程度のところほぼかき混ぜず、醤油をひとたらしの上むさぼるのが得意です。
「ご飯と卵が完全に混じるまでかき混ぜにゃならん」という意見も多々聞いた事がございますが、皆様はいかがでしょうか。
温泉卵を使うのも旨いんですよね。
たまごごはんを好きなように食べる。
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14/11/03