ちょっと聞いてください。
先月東京に行った際、帰りに久しぶり大阪を訪ねたんです。
もう十年ぶりぐらいになりますかね、北新地を懐かしみながら夜の散策を楽しんでいたんですよ。
そしたら見覚えのある路地に通りがかり、人間て何てことない場所の事もよく覚えているもんだなと感慨深くどの店に入ろうか物色していたのですが、
すると目の前に、聞き覚えのある店の名の看板が掲げられていたのです。
「うわぁ、懐かしい…」
思わず足を止め見上げて通いつめた日を思い出しました。 当時は知る人ぞ知る店で、看板も出さずに営業されておりました。
覗いてみようかしばらく考えましたが、これも何かの縁という事で扉を開き階段を昇ってゆくと、ああやはり昔のままの店内でした。
わずか8席。 あいにく早い時間だったので空きがあり、無事座る事ができました。
店主の姿は見えないようです。
アルバイトが二名と調理補助の方が作業しています。
カウンターの端にはいかにも常連とおぼしき客が居て、同伴を連れ品書きの上から順に次々料理を注文しています。
そこで「アレ?」となりまして。
常連さんは、私が調理補助だと思っていた方に向かって「大将!」と声をかけています。
そして彼はそれに応えているから大将なのでしょう。 私の知る大将ではありませんが…。
経営が変わって店は居抜きでそのまま使っているのかな? と考えながら熱燗を呑んでいましたが、また耳を疑う会話がありまして。
常連:「大将、この店もう何年になるかな」
大将:「24年です」
常連:「ほー、もうそんなになるの。 俺が通って二十年近くなるからなー」
おかしい…。
私がこの店によく通っていたのは十年くらい前です。 そして当時居たスキンヘッドの大将はここに居ません。
なのに目の前にいる大将は24年この場所でこの店名で営業していると言い、常連は私が通う以前からこちらに通っているという会話です。
だとしたら、私は通っていた同じ店名の店は一体何なのでしょうか?
改めて店内を見回すと、おおよそ記憶にある通りの間取りと雰囲気です。 そして店の扉も印象的で、開いてすぐ階段を昇る事からして疑いなくこの場所に通っていたのだという実感が込み上げてきました。
しかし店内に掛けられている独特のクセのある書は、雰囲気こそ似ているにしろ、記されている文字が違います。
なんか酔ったように頭がポワンとしてきまして。
ひとまず何かをつまもうと品書きを見れば、またショックを受けましてね。
「アボカドのなめろう」とあるのですが「アボカドを刻んでクリームチーズに乗せたもの」と説明書きが添えられています。
何を隠そう、当時通ったであろうこの店で大将に伝授された肴こそが、酒盗アボカドカマンベール3種和えであり、ぷちぐるにこのレシピを掲載したのはまさにサイトを開設したばかりの頃です。 今現在も飽く事なく楽しんでいる佳肴なのですが、
なぜ顔にまったく見覚えのない現大将は、アボカドのなめろうを品書きに載せたのでしょうか?
まあ、組み合わせとしては想像のしやすい両者ではありますけど、
私の通っていた店に別の大将がおり、しかもその人は私が通う以前からこの場所で営業をしていると言い、私が通う以前から通っている常連もそれを認めているという現状に、書が少し違っていたりアボカドが品書きにあるが3種和えとはちょっと異なるが、意匠は同じという現実に、
さながらパラレルワールドに迷い込んだかのような錯覚を覚えたのでした。
帰宅して即、名刺フォルダをスキャンして当時の店の情報を得ました。 すると間違いなく現在と同じ場所で営業されている事が判明しました。 そしてその名刺には店主、として当時の大将の名が刻まれています。
当時よく一緒に通った知人に連絡してもみましたが、氏の記憶はかなりおぼろげでアテになりません。
一体私は、何を見て経験してきたのでしょうか…。
ちなみに現在も、料理の質は大変高いものでしたので、なおさら気になります汗。
アボカドの皮をむいて軽く刻んだら、味噌とナッツを合わせてさらにトントン叩きます。
好みの加減叩いたら、サイコロに切ったクリームチーズの上に乗せます。
あとはアボカドを突き崩してはチーズとからめながらつまむだけなのですが、こんなの旨いに決まってますよね。
ぜひお試しを!
21/12/20