先日古い友人を辿って、十年ぶりに対馬へ行ってきました。
当時、共通の趣味であったクワガタが縁で親しくさせてもらっていたんです。
観光客の姿はほとんど無く街はとても静かでしたが、かえってそれが厳かな空気を醸し出していて、 久しぶりに落ち着いた時間を過ごす事ができました。
彼の邸宅の敷地に入るなり、いきなりウリボウが5匹「ダダダーッ」と走って逃げてゆき、かなり驚きましたが慣れるとめっぽう可愛くて、ずっとナデナデしておりました。
半自給自足の生活をしている彼の生き方は、今の私にとって大変参考になる事ばかりです。
色んな手伝いをしながら数日間お世話になりまして帰省の前日、庭で放し飼いしている鶏をつぶして作ってくれたいりやきはもう感無量で、対馬の焼酎をガビグビ飲み干しました。
慣れた手つきでテキパキ鶏を〆る様子をつぶさに観察しておりましたら、子供の頃の記憶が蘇りました。
そういいえば田舎の祖父は、お盆や正月遊びにゆけば、かならず一度は庭の鶏を〆て水炊きを作ってくれていました。
その頃は何とも思っていませんでしたが、今に思えば最大限のもてなしだったのかなと思います。
友の作ってくれたいりやきの味はもはや芸術でした。 「この鶏はかの有名な対馬地鶏なの?」と聞けば「そんな上等なものじゃない」と言います。
鶏は二年ほど自由に飼っていると、どんなものでも驚くほど美味しくなるそうです(私もいつか、そういう生活を送ってみたいものです)。
まずは鶏ガラを静かに炊いて、澄んだ美しい黄金色の出汁を抽出します。
今回彼の味に少しでも迫りたいという想いで名古屋コーチンのガラを使ってみました。
肉はモモが適します。
鍋にガラの出汁を張ったらとろ火にかけて、ぶつ切りの肉を炊きはじめます。 時折転がしながら赤味が消えるまで様子を見、砂糖と醤油で味をつけます。
みりんや酒などを用いない、このシンプルな調味だからこそ活きる鶏の味です。
あとは豆腐や好みの野菜を二三種類加え、火が通ったら完成です。
この鍋は野菜を煮るうちに、その甘味がどんどん出てきますから、食べ進みながら醤油を注ぎ足して面倒をみてあげる必要があります。
砂糖と醤油を加える分量で鍋の方向が決まり、今回あっさり風味に仕上げていますが、人によってはどちらの量も三倍ほど加え色濃く煮付けみたいにする方法もあるそうで。
〆には蕎麦、うどん、そうめん等を用いますが、うどんとそうめんについては鍋にそのまま加えて煮ますが蕎麦に関しては、別に茹でたものを器にとり、上から出汁を注いで食べるのがならわしだと言います。
20/03/30