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引き算の美学:煮奴

引き算の美学:煮奴

多くの方々と様々なレシピを考えていて、よく提案されるのが、

「何か彩りを添えてください」

という件です。

例えば煮物だったら脇に茹でたキヌサヤを添える、みたいな話ですね。

もちろんおっしゃる事は分かりますし、その方が見栄えもするでしょう。 もちろん要望には全て応えるよう心がけています。

でも。

地味な色味の料理の中にも、かならず美は存在します。

海苔で全面覆ったおむすびの中にも当然あります。 よく観察すると、片面の中心部がかすかに膨らんでいて、 たぶん海苔の下には梅干が埋められているのだろうな、と想像できます。

しかも、握り手はおむすびが固くなりすぎないよう食べ手の事を考えながらフンワリ愛情持って握りこんだ事もうかがえます。 だから梅の膨らみが外から確認できるのです。

おむすびを横から見ると、三角形がやや右寄りにねじれているので右利きの人が作ったのでしょう。

このように黒一色のおむすびでさえ、よく見ると様々な情報、各種美点にあふれているのです。

肉ジャガが茶色くて何が悪いのか。

そのジャガイモの美しい切断面の、ほんのわずかなほころびを愛でる。

煮汁の絶妙な色加減、そしてかすかに浮かんだ油玉のキラメキに息を呑む。

何も添えなくても十分美しいではないか。

これに何かを添え「彩が良くなりオシャレになった♪」と喜んでいるあなたは果たして何を見ているのか。 どうして美人に厚化粧をするような行為を良しとするのか。 煮物が暗いと嘆くのならば、パエリヤでも作って喜んでおけ。

と言いたくなってしまう事が正直たまにあります。

作り方

いつ覗いてもそこそこに混んでいて、でもきちんと座れる古い酒場があります。

その店の名物が煮奴です。

字の通り、豆腐を煮るだけ。 注文するとお母さんが豆腐を切って鍋に入れ、甘塩っぱい煮汁でゴトゴト煮るのです。

その時間5分。 いつ食べてもキッカリ5分煮るならわしになっています。

その間お母さんは他の仕事を全て止め、鍋の前で、じっとブルブル揺れる豆腐を眺めています。

やや煮汁が煮詰まって、豆腐に色がついてきた頃冷蔵庫から卵を取り出し溶き始めます、ザッと。

そしてそれを豆腐の上にたらしたら、フタを閉めてようやくこちらに顔を向け、

「お燗のおかわりは?」

と気配りしてくれるのです。

フタをして一分。 カウンター越しに届けられる鍋はもうフタが外されています。

それでも土鍋の熱で豆腐は小刻みに揺れ、添えられた匙にそれが伝わりズルズル鍋の中へ引き込まれそうになる所をつかんですかさず豆腐をすくい上げ、

ハフハフしながら美酒に酔うのでした。

ちょっとひき肉を入れてみようとか、三つ葉を散らしてみようとか、鶏も煮込んでみたりして、

昔はお母さんも色々試してみたそうですが結局、この鍋に必要なのは豆腐と卵だけである、という結論に落ちついたそうです。

お母さんはこの鍋を何十年も作り続けるうち、秘められた美に気付かれたのでしょう。

私がそれをそのままマネしてしまうとお母さんに対して失礼だと思ったから、今回仕上げにあえて白髪ネギを添え崩した次第です。

レシピのツボ

  • 煮汁は親子丼のだしですつまり。 醤油1:みりん2:だし3の。
  • 七味は合いますけどほどほどに。
  • 今回半丁の豆腐ですがたぶんすぐになくなっちゃうハズなので、替え豆腐を準備しておいてください。
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19/10/27



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