煮込みはロマンにあふれている。
だれが、いつ、どこで、なにを、なぜ、どのようにして煮込もうと自由。
素材の分量でも、注ぎ足しながら煮続けていく事を考えるとどうでもよく、頭を悩ます必要もない。
新たに食材を入れる度、また一から煮直していくという事は老人が赤子に帰る事に等しい。 しかも鍋人生における経験値はそのままに、である。
不老不死。
つまり料理界のベニクラゲと言えるのが煮込みなのだ。
何言ってんですかねまったく笑。
ラーメン用の巨大な寸胴鍋が遊んでいるので、いっそこれで大量に煮込みをこしらえて力尽きるまで煮込み続けてみようかな?
という構想を抱きましてね。
子供たちがそれぞれ独立する時が来たら一鍋ずつ持たせてやりたいなという夢を思い描いてしまったのです。 そこで、いざ本番を行う前に小鍋で半年ばかり実験してみようではないかと立ち上がったのでした。
秘伝のタレと共に、我が家の新たな柱となる事を願いつつ、妻には私が不在の際もしも天変地異が起こったら、金庫ではなくこの鍋だけを持って逃げるよう言づけました。
私がまだ駆け出しの二十代前半の頃、上司に連れられて行った老舗の味を今でもよく覚えています。
カウンターにデンと据えられた鉄製の大鍋。 絶妙な火加減であるがゆえ、もつが飛び跳ねてこちらに襲ってくる事もなく行儀よくグツグツ煮込まれています。
「煮込みふたつ」
と注文すれば、平たい器にすくわれて目の前に運ばれてきます、ネギを山盛りで。
あっちで煮込み、こっちで煮込み。 店中のお客がもつ煮込みをオーダーしては嬉しそうにムシャついています。 中には空になった器を愛おしそうに眺めながら、フチにこびりついた味噌だれをガーリック・トーストでぬぐっては口に放りこんでいる人もいます。
ひとえに名店の味は最も大切な部分、つまり幹だけを残し余計な枝葉を打ち落としたものがほとんどです。 今回の煮込みもまたしかり。 一度基礎を作り上げたらやがて思い思いの食材を煮込んでゆき、我が家自慢の煮込み鍋をこしらえてください。
味のキメテは赤ワインにありますつまり、ビーフシチューと同じです。
和と洋の食材を組み合わせるからこそ生まれる妙味を是非お楽しみください。
鍋に赤味噌を入れ、ちょっと待ってください。 この際用いる鍋は今後、この煮込みだけを煮続ける運命にあるかもしれませんからどうか慎重に鍋のチョイスをしてくださいね。
ワインをドボドボ注いだら砂糖をドッサリ加え、水を注してよくかき混ぜて味噌のダマを無くします。 もつを入れ、ローレルもしくはビーチューばりにブーケガルニ等こしらえて沈めたら、弱火にかけます。
フツフツ20分煮込みましょう。
煮あがりに再度味噌と砂糖を加えて軽く煮たら完成です。
どうですこの旨さ。 和酒はおろか、もちろんワインの友にも最高でしょう。
もつを食べ切ってしまったら、今度はお好みの食材を入れて煮込んでみてください、およそ合わない食材はありませんから。
オススメなのは塩鯖です。 しっかり焼いて、五分も煮れば「こ、これどうやって作ったと!?」と誰もが腰を抜かす絶品になりますよ、ぜひ!
19/09/28