まさかこの世に「鶏モツ専門の焼き鳥屋」があるなんて。
店構えは極めてモダンで、ちょっと警戒せざるを得ません。 経験上、こんな感じの店は大したことないからです。 鋼鉄製の重たい引き戸を開けると、10坪ほどの鰻の寝床な店内に、カウンターが一本走っていました。 座席は8つというところでしょうか。
2、3組の客は静かにグラスを傾けながら、串をつまんでいます。
若大将は、カウンター越しに次々と串を差し出します。 その際「ボソボソ」とその串がどこの部位なのかを説明している様子です。
初入店のオイたちは、とりあえずおまかせコースを注文してみました。 次から次に焼き出される串は、見るだけでは鶏のどの部位なのかがわかりません。 あわせて大将の説明はかなり小声で聞き取りにくい上、流れているマイルス・デイヴィスによりほぼかき消されてしまっているので、 一体自分が今何を食ってるのかわからない状況です。 聞き直す隙は大将にありません。
それがまたバツグンに旨いんですよね全部。
二杯目のビールを飲み干したところで今度は芋焼酎でじっくり味わおうと思っていたら、 同行していたほぼ下戸の友人がチューハイを飲み残してしまいました。 そこでザルのオイがそれを空けることになったのですが、これがまた串と合わないのなんの・・・。
話が逸れたのでしっかり戻ります。
コースを全部平らげて、部位が判明したのはレバーとぼんじりぐらいでした。 個人的にはコースをもう一巡したいぐらいでしたが、それも迷惑になりそうだったので一串づつ焼いてもらうことにしました。
とっさに、満足げな下戸の友人が焼きおにぎりを注文しました。 彼はもうシメなのです。
オイは程よく酔いがまわってきた頭で、おにぎりを焼く様子を一部始終眺めました。 焼きおにぎりの作り方にもこだわりがみられます。 オイが普段やっているように、 にっちらやって醤油に浸してオーブントースターでチン、なんてぞんざいなおにぎりの扱い方はしておりませんでした。
あまりにも手際よく作る様子、美味しそうに焼きあがった姿、そしてそれを頷きながらつまむ友人を見て、思わずオイも注文してしまいました。
その焼きおにぎりは、とても小さく可愛らしいくせに、香ばしさの極致でした。
それではマネして作ってみます。 まずは普通におにぎりを作ります。 塩は使わなくても結構です。 小ぶりな三角形が雰囲気ですが、まん丸だっていいんです好みでどうぞ。 でもあまりに大きいおにぎりは焼きにくいものです。
にぎったおにぎりはしばらく放置して、表面を軽く乾かします。 これが一見地味ですが、美しく焼きおにぎりを作るコツです。
軽く乾いたところで焼き網に乗せます。 転がしながら全面をこんがりと焼いてまいります。
※焼き網の温度が低いと、網にくっついてしまう恐れがあるのであらかじめ十分熱しておきます。
おにぎりの表面がパリリとしてきたら、ハケで醤油を塗りつけます。 醤油を塗った面を焼き、香ばしい香りが立ったところで次の面に醤油を塗り、そして焼き、と繰り返します。
「ジュウ・・・ジジジ・・・」醤油が炭の上にしたたり落ちた瞬間、香ばしい匂いがあなたを包むでしょう。 醤油の焼ける香気には、日本人のみならずいろんな国の人が魅了されるといいます。 我が家では子供たちが寄ってきた他、近所の猫が通りががりについ足を止め、遠くで犬の遠吠えが「のおあある、とおあある、やわああ」と聞こえ、雀が三羽、跳ね寄ってきました。
小皿に醤油をためて、そこへおにぎりを浸しながら焼く、という手っ取り早い方法もありますが、それではおにぎりの表面にまんべんなく醤油が行き渡らず焼きムラができる恐れがありますし、 醤油がつきすぎてしまい辛い焼きおにぎりになってしまう可能性もあります。 ですからここではハケを用いて丁寧に醤油を塗ってあげたいところです。 ハケはクセになりますよ。 塗って、焼いて、 転がしてまた塗って、焼いて・・・。
おにぎりの全面がこんがりと狐色に焼きあがればできあがりです。 一度に何個も焼いてしまうと、なれないうちはとても忙しくなりまして、焦がしてしまったりすることがあります。 ですからまずは、ひとつずつ、じっくりと、焼いていただきたいと思います。 今回は焼き鳥屋さんをマネて、素手で転がしながら焼きました。 ついトングを使ってしまいそうですが、それでは美しい三角形を崩してしまいかねないのです。
更新日:23/06/14
公開日:10/05/24