あわびに関しましては、これまでも檀流の蒸しアワビや、鮑の浜焼き 等掲載してきましたが、まだまだ鮑料理はあるのです。
今回作る品々は、北大路魯山人先生の『魯山人味道』と、発酵学の権威、小泉武夫氏の『 地球怪食紀行』を大変参考にさせていただきました。 この場を借りて、深くお礼申し上げます。
この料理のポイントは「いかに鮑を固くするか」というところにあります。 使用するアワビは、雄貝といって、肉面に苔のついたような青いものを使用します。 必ず活きたものを使用してください。
檀流ではこの生きあわびの急所を突き、息の根を止めてから作業にあたりましたが、今回は生きたまま、殻付きのままのアワビに、荒塩をふって、タワシでゴシゴシとこすります。
コシコシこするにつれて、アワビは段々と固くなってきます。 塩を使えば使うほどアワビは固くなるそうですので、塩をたっぷり用いて、ゴシゴシこすります。
塩を少量しか使わなかったら、アワビの表面は固くなっても、中のほうがグニャリとしていて美味しいのもはできないそうです。
さて、固くなったアワビを、殻からはずすわけですが、ここで用いる道具としては、小型の杓子(しゃくし)や木ベラなど木製で、先があまり鋭利でないものを使用します。 詳しい取り外し方は あわびの肝焼きの項目をごらんください。
殻からとりはずして身だけになったアワビにさらに塩を振り、徹底的にゴシゴシこすります。 するとさらにアワビは固く、カチカチになります。
鮑がカチカチになったところで、塩を綺麗に洗い流し、サイコロ状に切り分けます。 あわびを小さく切り刻むなんて、なんだか大変なことをしでかしておるような気にもなりますが、 臆せず切りわけます。
サイコロ状に切ったあわびを、透明のガラス容器に張った薄い塩水の中に投入します。 さらにほどよい氷の塊 も浮かべておきましょう。 これを器ごと、ギンギンに冷やすのです。
鮑のワタをトロトロにすりつぶして、そこへ少量の塩を加えて練って、トロミがついたところでこれを漬けダレとします。 冷えたコチコチのアワビに肝ダレをチョンとつけて、コリコリ食べます。
もちろんわさび醤油でもイケますね。 ちなみにワタを醤油にしばし漬けて汁気を切り、裏ごしして共あえするという技もあります。
もしもあわびの肝が豊富にあるようでしたら、こちらも試してみてください。
鮑の肝をブツ切りにして、熱湯にサッとさらします。 上皮だけに火が通り、中身は生という状態、つまり半熟に仕上げ、レモン酢をつけて食べます。
鮑の肝の酢の物とはまた違った風味でどんどん飲めます。
さて次はあわびを蒸して楽しみます。 檀流の蒸しアワビよりシンプルに作ることができますよ。 蒸す場合は雌貝が適しております。 雌貝 は肉面が粘土色をしているもので、生で食べるのに適する雄貝に対して、火を通して食べるのに適したアワビです。
アワビに被るくらいの酒を入れて、そこへ塩をひとつまみ投入します。 それに落し蓋をしてとろ火にかけ、汁気がなくなるまで煮詰めます。 ほとんど身が収縮しないわりには身が柔らかくなり、 味は非常に濃くなるという優れた調理法です。
※こちらのむしあわびもどうぞ!
蒸しあがったアワビを切って、貝そのものを鉢代わりに使用します。
※アワビの肝の酒蒸しもイケます。
ちなみに魯山人先生は、わざわざ酒蒸しにしなくとも、貝ごと水洗いしたアワビに塩を十分まぶし、1時間以上蒸せば美味しい塩蒸しができるとおっしゃいます。 3時間、5時間、10時間と蒸すに 従い、アワビは柔らかくなりますが、柔らかくなればなるほど、アワビの味が逃げることを知るべきだと、書いておられます。
※大根おろしを、あわびにかぶせて蒸す「餅あわび」という手法もあります。 ムッチリ柔らかく蒸しあがるのが特徴で、厚切りして堪能するとウットリです。
小泉武夫さんが石川県能登半島にある漁村の民宿で食べたという「活き蚫の黒作り」というものがあるそうです。
まずは新鮮なイカの墨をを取り出しましょう。 ちなみに今回使用したイカは、ヤリイカです。 イカのおろしかた→
イカの墨と鮑の肝をすり鉢でよくすります。 さらに酒、塩を加え、味を調えます。
アワビの刺身と、わさびの千切りを浸してから食べます。
さて次は干しアワビです。 あの中華高級食材の、干しあわびです。 おもわずと連呼してしまうほどの高級食材なのですが、これがまたなかなか売ってなくて手に入れるのに苦労しました。 しかも高いし。
というのはウソです。 そんなに高いもの買ったら嫁にアレされます。 なので自分で作ってみました。 作り方はというと、正式なところはよくわからないのですが、とにかく干し鮑というぐらいだから、 鮑(アワビ)を干してみようという話になり、まずはオイスターソースを作ったときのように、アワビを塩湯で茹で上げました。
その後、風通しのよいところに干すことおよそ2ヶ月半。 割合大きめだったあわびがトコブシほどの大きさに縮まり、カチンコチンになりました。 何故2ヶ月半も干したのかというと、今回戻し方を 参考にさせてもらった邸永漢さんの『邸飯店のメニュー』に「大きなアワビを天日で干すと、トコブシほどに縮まってしまう。」と書いてあったので、 アワビがトコブシ大になるまで毎日チェックしていたら2ヶ月半経ってしまったということと、小泉武夫さんの『食に知恵あり』に、 乾鮑(カンパオ)と鰹節はどっちが硬いのか? という話が載っていたところから、干しあわびは相当硬いものなのだということを想像し、大きさと硬度によって決定した干し加減なのです。 ちなみに本物の干しアワビは一体どれくらい干すのかは検討もつきません。
『邸飯店のメニュー』によりますと、この本がだされた昭和58年に中華料理店で干し鮑を食べると一人に一個のアワビがおよそ8,000円に 当たったそうです。 さらにこう書いてあります。 あわびは日本料理でも高級料理に属するが、それは生のアワビであり、値段は高いうちに入らない。 料理の仕方も生のままぶった切りにして 食べるか、酒蒸しにして、ワサビ醤油で食べる程度である。
ところが中華料理になると、あわびは干したものを戻したものでないと、最上品とは考えられない。 アワビの本当の味は干物のアワビにある。 どうして干したアワビが貴重品扱いされるのかというと、 貝柱やスルメと同じく、アワビは太陽の光を受けると、イノシン酸ソーダを生じて、生のときとは違って、一種えもいえない美味に変わるからである。 だそうです。
※最近中国で干しアワビを食べてきたという人がたまたま周囲におり、いくらだったのかと尋ねたら、8,000円ぐらいだったといってました。 中国本土や香港では、 長崎五島列島のアワビやナマコを干したものが最高とされているそうです。
※2 邸永漢『食は広州にあり』にこうあります。 【引用開始】そういえばシナ料理の重要な材料である魚翅、海参、鮑魚、干貝などはすべて日本の原産であるが、 その料理法が普及していないのみか、この事実さえ案外知られていないのではあるまいか。【引用終わり】
干しアワビを水に漬けて一晩おきます。
次の日、鮑を取り出して、水洗いをして汚れをおとします。 漬けておいた水は捨てます。
鍋に水をいれて鮑をおよそ30分中火で煮ます。 そしてそのままフタをして、また一晩おきます。
次の日、鍋の中の鮑と汁をそのまま器に移し変え、その上に豚の肩脂を約1センチの厚みに切ったものをかぶせ、さらにショウガの薄切りを加えてから8時間蒸します。
※豚の肩脂がどこにも売っていなかったので、サフランライスの時のように、 脂身の多い豚バラブロックを買ってきて、その脂をそいで使いました。 残った肉は、東海林風チャーシューにでも使うと無駄になりません。
きばって8時間蒸しあげると、汁は琥珀色になり、鮑独特の香りが立ち上ります。
蒸しあがったアワビに醤油かオイスターソースで味付けをしますが、邸さんは醤油を使うことが多いそうで、醤油に少し片栗粉を混ぜるのだそうです。 アワビの下地には、野菜を強火で炒めた ものを使用し、一番よいのが豆苗(グリンピースの若葉)で、次にホウレンソウ、小松菜となるそうです。 青いものの上にアワビを乗せると、見栄えがするのです。
今回下地はホウレンソウを使用し、檀流のカキ油炒めを参考にして作ってみました。 ホウレンソウの処理などはさすが檀さんです。 アワビを煮汁ごと中華鍋にあけ、煮立てて醤油で味付けをし、仕上げに水溶き片栗粉を回しいれました。
※鮑の切り方が載っていたのですが、よくわからないのと、せっかくなので丸ごと盛り付けたいがためにそのままにしておきます。
アワビの食感が生とも蒸したのとも違い、旨味は凝縮されている感じですよ。
せっかくなので、アワビの肝も干してみました。 漢方といった感じ。 さて。 これをどうやって食べようかな。
※鮑の肝の酒粕漬けというのがあり、鮑のキモに塩を振り、酒粕に10日ほどつけるらしいです。
07/06/27