新鮮なイカを糸のように細く切って食べる「いかそうめん」は脳天に響く美味しさがあります。 「いかさし」に卵黄をからめて食べればあまりの濃厚さに黙り込んでしまいます。
知人のおじさんにイカが大好物の人がいて、刺身で食べる際は切らずに、イカの胴に丸のままかじりつく人がいます。 それほど、イカの持つ旨みには人を熱狂させる力があるんです。
「いかさし丼」といわれたら牛丼、親子丼、 海鮮丼、 カツ丼のように「炊きたてのご飯の上にイカの刺身を盛りつけたもの」という風に解釈するのが自然です。
でも今回作るいかさし丼なる食べ物はそうじゃないんです。
イカをおろしまして、できるだけ細く切ります。
それを丼にどっさりと入れます。 そうなんです、ご飯はないんです。
その上にわさびをひとつまみのせまして、醤油をたっぷりと回しかけます。
そして存分にかき混ぜてから、まるでウドンでも食べるかのようにススリこむのです。 これこそが、いかさし丼なのです!
この食べ方は、『あまカラ』に三浦哲郎氏が書いているもので、氏の故郷である青森県八戸市の漁師町によるものです。
いかさし丼にはヒヤの茶碗酒が実によく合うそうで、茶碗に並々と注ぐほうがいい、とあります。 そしてその茶碗のフチにかけた親指の先を、なかの酒に浸しながら呑むのがいいそうです。
実際やってみましたところ、これが実に呑めるんですよね。 一度にこれほどまでに大量のいか刺を食べたのは今回がはじめてです。 丼を持ち上げフチに下唇を当て、「ズゾゾォー」っとススリこむと、イカが口の中で暴れ、そのまま喉元を過ぎて胃袋へ収まります。 噛むヒマがないんです。
あわてて茶碗酒をすすれば、茶碗であるが故に予想以上の一口になります。
そしてまた丼からイカをススリ、酒を飲み、と繰り返すと、たちまち丼一杯のいかさしは無くなります。 あわせて酒も、無くなります。 すぐさまいかさしを補給し、 茶碗に酒を注ぎ・・・と繰り返していたら、いつもの5倍速で、できあがってしまいました。
いかにも漁師町らしい、豪快な食べ方です。 ちなみに茶碗のフチが欠けているのは、酔いが回って丼に茶碗をぶつけてしまったためです。
※醤油はたっぷりとかけるのがコツだそうです。 塩辛くなりそうですが、イカから自然に出る水分と醤油が程よく調和して、普通のダシではどうしても出せない妙味がでる、 と三浦さんはおっしゃいます。
ちょっと変わったいかさしの食べ方をもう一品どうぞ。 行きつけの酒屋さんに教わりました。
まずは塩こうじを仕込みます。 米こうじ100グラムに対して塩20グラムを加え、ヒタヒタに水(120cc)を注ぎます。
イカの塩辛や酒盗を作る時のように、 毎日かき混ぜて10日ほど置き、ドロッとしたら塩こうじのできあがりです。
塩こうじに細切りのイカをあえ、30分置いてなじませるとできあがり。 酒肴ですこれは。
※塩こうじを野菜にからめるというテもあります。
11/03/22