出雲蕎麦

出雲蕎麦

#stayhomeで普段手が回らない事、例えば書類整理等をしておりましたら、醤油シミのついた箸袋が出てきました。 しげしげ眺めると、ああこれは。

袋の裏面へ、にじんだ万年筆で走り書きがしてあります。 まぎれもない、私の字です。

三年前の秋、広島の友人が島根を案内してくれました。

酒蔵を何軒も回り、ホロ酔い加減で辿り着いたのは、一軒の一見普通な町のお寿司屋さんでした。

彼曰く、凄い店なのだとか。

外観にオーラこそなかったものの、店内は隅々まで掃除が行き届いておりピンとした空気感の漂うもはや食べる前から良い店だという判断ができまして。

コワモテなのに「どっから来たの?」と気さくな大将と盛り上がりながら食べ慣れぬ、そして見慣れない日本海の魚たちに舌鼓を打ったのでした。

店内は申し訳ない程空いております。

カウンターの端っこにある巨大な招き猫の下には、スティーブ・ジョブズスタイルに身を包んだ初老のお客が一人エイヒレをつまみながら、冷酒を淡々と飲んでいます。

やがて酔っ払ってきた大将は、その人を我々に紹介してくれたのですが、三十年来付き合いのある蕎麦屋の店主さんだと言います。

私はかえしを常備しているくらいですからこのような本職の方の話を聞くのがたまらなく好きです。

質問すれば即答してくれる培ってきた技や想いに大いに頷きながらも「私こういう風に普段作ってます」と伝えたら、あんたそれ本気で言ってんのか、と返ってきまして。

お互い大分飲んでいるのでとっくみあいのケンカに発展するかといえばそのような雰囲気でなく「水墨画マニアですが雪舟を知りません」と真顔で答えた高校生を目の前にしたかのように、

「頭大丈夫? 目まいしない? ちょっと病院連れてこうか?」という慈しみの混じった心配から来るそれでした。

私の作り方には、あるものが足りない事が決定的にダメだと言われまして。

長年の試行錯誤により編み出した製法をハナからダメだと評価されるとさすがに堪えたのですが、ここはひとつ素直に行こうでないかと「では何が足りないのでしょう」と聞いてみるとすんなり、

じでんしゅ

と教えてくれました。

「え、そのじでんしゅとは何ですか?」とさらに問いましたがおかしいですか私は皆さん。

じでんしゅ、なんて言葉聞いた事もありませんし、たぶん酔っ払っちゃってロレツが回らなくなったんじゃないかと判断しましたが、とっさに口をはさんだ大将が教えてくれたのは、島根に古くから伝わる料理酒だという事実でした。

地伝酒と書きます。

この地方では欠かせぬ調味料であり、大将も煮物やツメに必ず入れるとおっしゃいます。

猪口に注いでくれましてね。 飲んでみると質の高い日本酒を長期熟成したかのようなコクとまろやかさに溢れておりました。 お酒としても誠に素晴らしい。

作り方

あくる日蕎麦屋に向かい、昨夜の礼を述べたら秘伝のかえしの調合を教えてくれまして、それを慌てて走り書きしたのが名刺入れに挟んでおいた、寿司屋の箸袋でして。

大事にとっておいたのですが、書類に紛れて忘れてしまっていたんですね。

地伝酒だけは当時すぐに取り寄せたのですが割子の持ち合わせが無くて作らずじまいでしたが、大変良い機会です。 さっそく頃の良いものを通販しては、いざ地伝酒の瓶のホコリをはたいて調理開始となりました。

醤油、みりん、砂糖。 おなじみのかえしの材料ですが、ここへ地伝酒を加えると各段に深味が増すと言いますし、実際そうでした。

調合したら火にかけて、沸いたらアクをややすくいます。 あとはかつおだしと合わせるだけで、ここはいつも通りかえしとだしを1:3で合わせました。

コクはあるのに甘ったらしくない、ちょっと硬派な蕎麦つゆです。

茹でた蕎麦を割子によそい、何かしらの具を乗せます。 何軒かの蕎麦屋を訪ねましたが、大したものは乗っていませんだからこそ、蕎麦が活きるんですね。

今回は天かす、卵黄、山芋でまいりましたがなに、好きなもので結構です。

で、普通蕎麦といえば蕎麦猪口につゆを入れて蕎麦を箸でつかみ上げてはジャブとそこへ浸してススる、という風になりますが、出雲蕎麦では割子に直接つゆをたらして食べる所が面白いです。

そして一段目を食べ終えたら、二段目へその器に残るつゆを回しかけて食べ進んでいくのが慣わしだそうで。

いやはや名店に劣らぬ味を生み出せて、ノドの奥に刺さった魚の骨がようやく抜けてくれたかのような、安らかな気持ちでおります今。

ポイント

材料:2人前

  • 出雲蕎麦:200g

かえし

  • 醤油:210cc
  • 砂糖:40g
  • みりん:20cc
  • 地伝酒:15cc

蕎麦つゆ

  • かえし:100cc
  • かつおだし:300cc

  • 薬味:適量
  • 天かす:少々
  • 卵黄:2個
  • 山芋:適量

調理時間

  • 15分

地伝酒

地伝酒が作られているのは出雲地方と宮崎県の一部です。

清酒よりも色濃く甘味が強いのが特徴で、絞る前に灰を加えて酸味を除去するという独特の製法で生み出されます。

古くは飲料として用いられていましたが、その後調味酒として活用されるようになりました。

出雲料理である野焼きかまぼこや、今回みたいなそばつゆには必須の調味料です。

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20/04/16



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