友人知人相まって、おでん屋で飲んでいたときのことでした。
『UFC112でのアンデウソン・シウバの戦い方』に関して熱く語り合っていたところ、となりに座る面識のない方からお酌をしてもらいました。
「ああ、ありがとうございます。」と一気に杯を空け、「ささ、どうぞ・・・」すかさず返杯させていただきました。
聞くところによると、この50代半ばの紳士は友人の上司にあたるそうで、お互い自己紹介をしてから少し会話を楽しみました。
紳士は徐々に酒がはいるにつれ、様子が変化していきました。 いつの間にか、飲み屋によくいる、明るく豪快なおっさんに変貌し、オイの肩をバシバシ叩きながら手酌でドンドン焼酎を注いでは飲み、 オイの胸を力加減なくヒジで突いては手酌でドンドン泡盛を注いで飲む、というちょっとムズカシイ感じの人に出来上がっていったのでした。
適当に何かしゃべりまくりながらごく自然に席を移ろうとも考えましたが、この程度でひるんではいけませんし、何よりこの人は面白くていい人です。 こんな人と楽しく飲むには・・・自分も同じテンションまで昇るに限ります。 泡盛をあおりながらすぐに追いつき、「何言うてんスかー!」とツッコんであげるとすごく喜びます。 この世代、地位になると、周囲に突っ込んでくれる人がなかなかいなくなるものです。 今までど突かれた分のお返しをしたいと思います。
元紳士は食べること飲むことが大好きで、その辺の話にやけに詳しい方でした。 料理も得意だそうで、同じ趣味を持つものとして大変興味深く会話を楽しむことができました。
会話のハイライトは「マグロ」でした。
水産県長崎に住んでいながら、なかなかマグロを食べる機会がない、とボヤいたところ「マグロだったら築地で買え!」と元紳士は胸を張り、 そのまますり寄ってきます。
「築地ったって、なかなか行くヒマないじゃないですか」というと、「オイくん、何言ってんの、ツーハンツーハン!」と元紳士。
名刺入れから取り出したのは、築地内にあるマグロ業者のカレンダーでした。 休業日、営業日が記されており、肌身離さず持ち歩いているという言葉通り、文字はかすれ、 くたびれた紙切れになっています。
元紳士:「俺ぁ、ここでいつも買ってんのよ、マグロ。 直接行くときもあるけどさぁ、電話でぇ、どんなんが欲しいか言えばぁ、送ってくれんのよ」
オイ:「是非、通販してみたいです」
元紳士:「あそー、じゃあ、今から電話してみっからさ、プルルルー・・・・・・・・・あれ出ないじゃん。 あれ?今日休みかなぁ?おかしいなー。」
オイ:「いやいやていうか、このカレンダーに営業時間13:30までって書いてあるじゃないですか。 今もう23時ですよ。」
元紳士:「だーっはっは、だーっはっはっは!(肩をバシバシ殴りつけながら)」
その日は朝まで楽しく飲みました。 マグロについてはまあ、飲み会の席での話だから機会があればまた今度、と思っていました。 ところが昼に、紳士から電話があったのです。 また元の紳士に戻っていました。
紳士:「オイくんですか、昨日はどうも」
オイ:「あ、どうもありがとうございました、楽しかったです」
紳士:「それでねー、昨日言ってたマグロの話なんだけど、どうする、注文してみる?」
オイ:「是非(あんだけベロベロになっても覚えてたんだ)!」
紳士:「わかった。 俺注文しておくよ。 部位は?」
オイ:「そうですねー・・・ひとまず中トロでお願いしたいです。」
紳士:「いい選択だね。 で、どのくらい必要?」
オイ:「そうですねー・・・一万円でどのくらい買えますか?」
紳士:「養殖モノだったら家族で食べる量あるよ。 天然モノだったらチョットだろうね。」
オイ:「ウチ大家族だから養殖モノでお願いします」
紳士:「どうせなら天然モノにしときなよー」
オイ:「ではそうします」
紳士:「わかった。 いつ欲しい?」
オイ:「今すぐにでも欲しいです」
紳士:「じゃあ明日送るように言っとくよ。 金払っとくからさ、今週末会ったときに頂戴」
オイ:「うわあ、何から何までありがとうございます」
と、いう話で届いた天然本マグロの中トロを食べます。
翌日小包が届きました。 中トロに違いありません。
「天然モノだと少ないよ」という話だったので予想はしていましたがやけにコンパクトな発泡スチロールの箱に入っています。
早速フタを開けると現れました、中トロが。
魚屋さんでよく見かける緑色の紙にくるまれ、その上からビニール袋をかぶせられています。 その周囲には氷水が張り巡らされていてキンキンに冷えている様子です。 福岡博多 天然本鮪と書かれた紙が乗せられています。
箱の中に一枚の紙切れが浮かんでいました。 それは紳士が持ち歩いていたものと同じものでした。 購入したお店は築地にあるまぐろ藤田です。
電話・FAX注文承ります。 日本全国どこへでも発送致します、とあります。
カードの裏面は休業日が記されたカレンダーになっています。
それでは早速中トロを拝んでみます。 氷水の中からそっと取り出し、ビニール袋を開封します。
緑色の包み紙を開くとそこには中トロがドーン!ではなく、何やらキッチンペーパー風の白い紙にくるまれた塊が現れました。 幾重にも包装するもんなんですねマグロって。
白い紙を開くとそこには中トロがドーン!と無くて、さらに白いガーゼのような紙にくるまれた物体が現れました。
それを開くとようやく、中トロが現れました。 しっとりとした表面には脂がうっすら広がっています。 赤身から徐々に脂のある白い部分に移りゆくグラデーションはステキです。
それでは早速、中トロを刺身で味わいたいと思います。 どうせ家族で食べるのだから、中トロの塊を端からブ厚くブツ切りにして食べようかとも考えましたが、 ひとつここはサク取りに挑戦してみようかなせっかくですし、と思いつきました。
いびつな形をした中トロを、短冊型に整形してみる試みです。
まずは柳刃包丁をよく研いでおいて、 まな板全体を水で濡らし、固く絞った濡れ布巾で全体をふいてから用意しました。 乾いたまな板は魚の臭いがしみやすいためです。
中トロの塊をまな板の上に置き、ぐるりと一周舐めるように見回します。 無駄なく形よくサクにできる場所を自分なりに見極め、深呼吸してから一気に包丁を入れました。 結果、 図のようにサク取りすることができた気がします。 右から2番目がそのサクです。 切り取った部位にトロっぽい部分が沢山行ってしまったような気がしますが、 べつにそこを捨ててしまうわけではありませんので気にしません。
まずは中トロを平造りにしてみます。 白っぽいトロ風の部分が手前にくるようにサクを置きます。
平造りの場合、サクの右側から切り分けていきます。 刃元から包丁を当てて、スーッと引ききります。
刃先まで引いたらマグロは切り離されているハズですから、そのまま包丁で切り身を右によせます。
テンポよく次々に包丁を引き、右によせていくことを繰り返せばマグロの平造りのできあがりです。 寄せた切り身の列を崩さないように包丁ですくいあげて器に盛り付けます(ページトップの画像)。 この度は自家製煮切り醤油でいただきました。
※平造りの際はまな板に対して垂直に包丁を入れるのが基本的ですが、すこし包丁を寝かせて入れることで断面が大きくなりかつ、切り口が美しくなるという話もあります。 又、切り身の角がきれいに立つように切るのが理想で、蛸引きを使えばそうなりやすいです。 一切れの厚みは1センチ弱とか言われますが自分が食べるマグロですし、 どんなに厚く切ったって構いやしません。
次はそぎ造りです。 サクを裏返し、やはり白っぽいトロ風の部分が手前にくるようサクを置きます。 筋の入り方が「平造りと逆」になっていることに着目してください。
そぎ造りの場合、サクの左側から切り分けていきます。 刃を寝かせて、平造りの半分の厚みぐらいになるよう、そぐように包丁を入れていきます。
そぎ取った身は、裏返して器に並べます。
※そぎ切る最後の瞬間には包丁を立てるという技もあります。
そぎ造りを二つ折りにして盛り付けました。 平造りにしても、そぎ造りにしても、是非本ワサビでいただきたいものです。
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10/04/17