「天ぷらとはつまるところ、蒸し物である!」
と依然某有名天ぷら店を尋ねた際断言されました、その日は寝るまで悩みました。
プロとはいかずとも、ちょっとした気遣いで、家庭の天ぷらを美味しく食べようというコーナーです。
さて何を天ぷらにしましょうか。 アナゴやキスは想像しただけでもヨダレがでてきます。 海老も食いたいですし、イカ・・・オクラ、ししとう、タマネギ、シイタケ、シソ……。
お好みの食材を天ぷらにしましょう!
洗って水気をよくとっておきます。 適当な大きさに切り分けておきましょう。
冷凍モノを使う場合、十分解凍させて水気をとっておきます。 エビを使う場合は、 尻尾の先を切り落としておくと、油はねしません。 ※エビフライのときと同じです。 また、背中を伸ばしておかないと、揚げる際丸まって衣がやぶれます。
揚げる前になって、バタバタと材料を用意するのではなく「今日は天ぷらを作るぞ!」と前もって準備しておく余裕が大切です。
※ちなみにエビの大きさは手一束、ぐっと握って頭と尻尾が出る程度のが良いものです。
「天ぷらほど素人とプロの差がでる料理はない」とよく脅されます。
もちろん技術の差もありますが、道具の差も大きいものです。 たとえばプロの使う揚げ鍋は、金だらいほど大きいものに、油を10センチにも及ぶ深さになるまで注ぎこんで作ります。
これほど大量の油だと、素材を入れても油の温度が下がらずに、カラッと仕上がるわけです。
いっぽう家庭ではコンロの大きさや、やる気によって鍋の大きさも制限されますので、なかなかムズカシイという事になるのです。
天ぷらとはつまり、油の熱にていかに素材の水分を抜くか、ということですので、鍋にはできるだけこだわり、熱が逃げにくい厚めの鍋を用意したいところです (ウチでは揚げ鍋を使ってます)。
保温力にすぐれた厚手の鍋がよいものです。 タネを入れると油の温度が5℃下がりまして、上手に揚げるには「油の温度が一定していることが望ましい」のです。
天ぷらの衣は中身を油の高温から保護し、素材の周囲に水分の多い膜を作ってそこから出る水蒸気で内部の素材をゆっくり温め、しかも衣自体は油を吸ってこんがり香ばしい風味を身につける為存在します。
天ぷらの衣はかき揚げの時と同じように作れば問題ありません。 注意するところとしては、
です。 中力粉や手打ちパスタに使う強力粉を使うと、粘りが強すぎてカラリと揚がりません(グルテン)。 また、小麦粉の粘りは温度が低いほど出にくいので冷やすのです。 衣は粉っぽさが残るぐらいザックリ混ぜるだけにします。 混ぜすぎると粘りが出てカラリと仕上がりません。 粉を振るっておく事も重要です。
とにかく粘りに十分注意しましょう。
衣の分量の目安としては、小麦粉100gに卵1個、水100ccです。 小麦粉の二割程度コーンスターチを加えると粘りが出にくくなりますよ。 ベーキングパウダー(重曹)を忍ばせるのもひとつのテです。 入れると衣の膨らみが良くなり又、衣の固さを保ちます。
※冷水400mlに卵黄一個を入れて混ぜ、そこに同量より少な目の薄力粉を入れてザックリ混ぜる衣も美味しかったです。
タネに衣をつける際にもポイントがあります。 野菜など水分の多いものには厚く、魚介類には薄くつけます。
シソやシイタケを揚げる際には裏側だけに衣をつけ、色の美しさを活かすと同時に、水分がこもってベタつくのをおさえます。
アナゴやキスに衣をつける場合、皮側の衣が厚くなるような心構えで挑みます。
美味しい天ぷらを作るには、是非油にこだわりましょう。 サラダ油と胡麻油を混ぜて使うと風味が良くなります。 その割合は6:4とか半々とか色々ありますが、とにかく油を単体で使うよりも、混ぜたほうが美味しくなります。
でも自分で作り、自分で食べるものなので、サラダ油のみで揚げたり、ごま油のみで揚げてみたり、 その他の油を使ってみたりしたほうが勉強になると思います。
惜しげなく、思い切ってたっぷりの油を使うことが重要です。 油が少ないとカラリと揚がりません。 もちろん新しい油に越したことはありません。
古い油で揚げた天ぷらを食べると美味しくないばかりではなく、胃がもたれたりします。 油の表面に泡が立ち、いつまでも消えないようならば古くなった油の証です交換しましょう。
最低でも材料の三倍の油を用いたいところです。 ※胡麻油だけを用いて揚げると油切れが悪いので何らかの油と混ぜ合わせて使うようにします。
油の温度は180℃が基本的ですが、火の通りの悪いものは170℃で揚げたりもします。
油の温度を知る目安として、火にかけた油の上に衣を少し落としてみる方法があります。
衣をくぐらせた天ダネを順次揚げていきます。 まずは野菜類から揚げ、その後魚介類などを揚げるようにします。 動物性たんぱく質が、油の酸化を早めるからです。
アナゴやキスは皮を下にして静かに油の中に投入します。 こうすることで素材が丸まってしまう事を防止するのです。
シソは衣をつけたほうを下にして油の中に投入します。 衣側が揚がったらすぐにひっくりかえして表を一瞬揚げ、すぐさま取り出します。 すぐに揚がります。
十分揚がったかどうかは、素材から出る泡で確かめることができます。 泡が少なくなったら水分が飛んできたということで揚げ上がりが近いことを表します。 経験をつみ、ベストなタイミングを覚えましょう。
油の中へ一度に沢山のタネを投入してしまうと、まず間違いなく上手に揚げることができません。 油の温度が急激に下がってしまうためです。 少しずつ、適度な分量を投入します。
油に材料を入れた後、箸でコロコロひっくり返したりしたくもなりますが、ここはジッとガマンです。 天ぷらは衣が固まるまで、箸でいじる必要はまったくありません。
平らな野菜などは、一度ウラオモテを返す必要がありますが、あとは油から引き上げるまで、いじりません。 もしもいじってしまったら・・・衣が破れて必要以上に水分が抜けたり、 旨味だって流出しちゃいます。
材料を油にいれたら、最初は勢いよく泡が出ますが、そのうち少なくなってくるでしょう。 これは素材から水分が抜けたからで、 となれば揚げあがりとなります。 この辺は見極めるタイミングを練習する必要があります。
素材から水分が抜けた分、揚げる前よりも軽くなるのも見極めに必要な事項です。
うまく揚がったからといって、ポイッとほっといたらなりません。 油切りも重要です。 油から引き上げたら二三度軽く振り、油を落とします。 天ぷらを重ねて置くなどもってのほかです。
網の上に放置しておいたりせずに、揚げあがりを即パクつくのが美味しさのヒケツです。
※天かすはマメにすくいとります。 ほっとくと、天ぷらに焦げた天かすがくっついたり、油が焦げ臭くなってしまいます。
天ぷら屋の主人が、「これは塩で召し上がってください」などと言っても、聞き流す。 絶対に天ツユを選ぶ。
と書いたのは、大根おろしが好きな丸谷才一氏です。 塩では大根おろしが食べれないからという理由でした。
ちなみにオイは「塩で食べてみて」と言われたらまずは素直にそうします。
さて、天つゆの作り方ですけど、簡単にやるならば市販のめんつゆを用いれば良いとして、 自作する場合はどうするか? めんつゆの作りおきがある時は迷わずこれを使います。 無い時はこの割合で混ぜ合わせ天つゆとします。
『池波正太郎の食卓』にある「丼つゆ」を作り、天丼にするのもひとつのテです。 作り方は、
※天ぷらを東京風では「天ぷらのしたじ」につけて食べる。 一般的に「天つゆ」と呼ぶが職人言葉では「天した」。
天ぷらの薬味といえば大根おろしやおろしショウガの事がまず真っ先に思い浮かびますが、 老舗の天ぷら屋では大根おろしは使わずに柚子の皮をおろしたおろし柚子を使います。
大根おろしについて、北大路魯山人はこう言いました。「天ぷらは油が少し悪くたって、畑から抜きたての大根おろしがあればなんとかなる。 天ぷらに新鮮な大根おろし、これにしょうゆをかけて食べれば俗なダシに優る。」と。
薬味は大根おろしで十分です。
※一本の大根の、先っぽのほうが辛くて薬味に適します。 葉に近い部分は煮物などに用います。
天ぷら屋に行くときは、腹をすかして行って、 親の敵にでも会ったように揚げるそばからかぶりつくようにして食べなきゃ。
と、池波正太郎氏は「男の作法」に書きました。 そうしないとテンプラ屋の親父は喜ばないそうです。
プロが揚げた天ぷらでさえ、三分もたてばカリリとした食感はなくなります。 家庭で天ぷらを食べる際も「揚げたてが一番旨い」という事を心に止めておきたいところです。
天ぷらは揚げたてが一番と言いましたが、作りすぎて残ってしまった天ぷらにもまだ道はあります。 それは天ぷら茶漬け。
北大路魯山人によるものです。
08/10/03