あなたがもしも、突如三尾の鰯を目の前に差し出されて「これでおもてなし料理を作ってください」と命じられたらどうしますか?
鯛ならともかく鰯でソレってこの人何考えているんだ一体…とあまりの理不尽さに毛根から汗が噴き出て地団太を踏んでしまうでしょう。
鰯の料理といっても刺身で食べたり生姜で煮たり、団子にするというテもありますがどれもおもてなしか、と言われたらそうでもない感じですよね、いかにも平時っぽい感じです。
そこでお届けしますのが今回、鰯の塩焼きです。
塩焼きですが何か問題でもありますか? 何ですって、先に述べた三品のほうがまだマシですって?
フフ落ち着いてください。 この塩焼きの、一体どのあたりがホスピタリティ溢れているのかをご説明させていただきとう存じます。
鰯の塩焼きなんてウロコをかいて(新鮮な鰯にはウロコがある事を知ってる人はあまりいない)、ワタを抜き塩を振って焼けばそれだけでしょ!
おっしゃる通りですがそれではまったくもてなしていませんね。 そこでこうです。
鰯を一尾まな板に置いたら頭と尾を落とします。 腹を裂いてワタを抜いたら一旦きれいに水洗いをし、準備完了です。
焼き網を熱し、油を薄く塗ったら処理済みの鰯を並べて焼きはじめます。 塩をパラパラ。 ジリジリ音を立てながら焼けていく様を見守りながら返しては焼き、こんがりした所で再びまな板へ。
鰯が大きければ一口大の三等分にして、今回みたいに小さければ半分にして、その切り口から骨抜きで中骨を抜いてしまうのです。
鰯は生でも焼けてもか弱い魚。
中骨はあっけなく抜き取られてしまうでしょう。 アジやサバではこう簡単にはいきません、身と骨は頑固に結着していますからね。
ハイこの作業こそ、おもてなしの気持ちあふれるひと手間です。
鰯はわりあい骨骨しい魚です。 その骨を抜いて供するのですから「鰯の塩焼きです」と出された客人はとたんに、ある程度骨との向き合い方を意識するものですが口に含んだ瞬間骨のない事に気づいて感動するんです。
もっとも、ただ骨抜きにした鰯を皿に盛っても「オイルサーディン出してんじゃねえ!」みたいな見た目になりますから上に大根おろしをたっぷり乗せて、おろし生姜を添え、醤油をたらしてお出しさせていただくのです。
それでは次回、鳥皮三枚でおもてなし料理を作りなさい!でお会いしましょう。
21/08/17