ぷちぐるtop / レシピ一覧 / 塩蔵 / 唐墨(からすみ)

からすみ

唐墨(からすみ)

からすみといえば長崎であり、越前のうに、能登のこのわた、長崎(野母)のカラスミはご存知日本三大珍味であります。

「カラスミ」という名前の由来は諸説あるそうですが、一般的には中国伝来の墨の形状に似ているから。 と、いうことらしいです。

要は、唐墨という名の由来は、形状に由来するものなのです。 ということは、何もからすみをボラの真子(卵巣)で作らなくたって、鰤や鯛の真子で作ってもよいではないか!という解釈を勝手にしたのです。

長崎に数店舗あるからすみ専門店に出向くと、やはりカラスミという食べ物は高級品であります。 年に数回、一番小さいサイズを購入して、紙のように薄くきって酒肴にしたりもしておりますが、やはり物足りない。 自作すると、沢山食べられる。 じゃあ、自分で作って食おうじゃないか。

天然鯛姿

からすみの原料

本来のカラスミはボラの真子で作るのですが、今回、ブリの真子を使って作ってみます。 その他サバ、イサキなんかでも美味しく作ることができましたので、魚に真子がはいっているシーズンを見計らって、一年分のカラスミを作っておくことをオススメいたします。

※あまりにも魚体が小さいと、真子もそれなりに小さくなりますので、あるていど大きい魚の真子を使用して作ったほうがよいです。


寒ブリ

こちらは自家製唐墨作りをするにはイチオシの鰤。 春頃の天然物には、ドデカい真子がたんまりと入っております。


真子

真子の摘出

目当ての魚が手に入ったら、真子を慎重に取り出すのですが、これがなかなか難しい作業になります。 不注意に、いつも魚を下ろすように、包丁を腹に入れると、間違いなく真子を傷つけてしまいます。

ですから卵巣を取り出す際には、包丁を薄く、薄く入れていくことが重要です。 しかも卵巣の末端は、魚体にしっかりとくっついておりますので、その部分は、魚の身ごと切り取ったほうがよいです。(上等のからすみを購入すると、末端にボラの腹肉が少しくっついているのはそのためです)

※卵巣だと思って腹を割いたら、精巣(白子)だったということも多々あります。 白子がでてきた場合は、煮付けや湯がいてポン酢で食べればよいかと思います。


真子の摘出 右図のように、水色の実線部分しか、目視できないのですが、実は真子は破線部分にももぐりこんでいるわけです。 無理に引き抜こうとすると、真子が破れてしまいますので、慎重に、包丁をすすめて、真子にストレスをかけることなく取り出します。
ブリの真子

無事に真子を取り出すことに成功しました。 あくまでも新鮮な魚の真子を使用することが重要です。 真子(卵巣)には薄い膜が張り付いていると思いますので、これを慎重にはがしておきます。 (無理をすると、卵巣が破けてしまいかねませんので、ほどほどにしておいてください。)


血抜きをする

血抜き

取り出した真子を、薄い塩水の中に浮かべます。 やさしく手で支えながら、表面を走る血管に、竹串など尖ったものを突き立てます。 すると血管から血が流れてきますので、それを指でしごき出します。この作業を根気良く繰り返し、真子の表面に走る血管全ての血を抜いてしまうわけです。

非常に根気のいる作業ですが、出来上がりの唐墨の見た目を大きく左右する大事な作業ですので、必死になって行います。

しかし、あまりにも完璧を求めてしまうと、ついうっかり真子を破いてしまう恐れがあります。 どうせ自家製だし、程々でやめておいてもよいかもしれません。


塩ふり

塩漬け

血抜きがすんだら、塩を全体的に振ります。 分量はとくに決まっておりませんので、ご自由にどうぞ。 塩を振った真子をトレイに並べ、ラップでもかけて、冷蔵庫で寝かせます。 大体1週間程度はそのままにしておいて、時折様子をみます。 真子から水気がじんわりとにじみ出てきていると思いますので、マメに捨てたりします。


塩ふり

塩抜き

さて1週間がたちました。 卵巣から水気が抜けて、固くなっています。

そんな真子を流水に浸して、しばらく塩抜きをします。 塩抜きする時間は、オイの場合、2時間程度。 なんだか水道の出しっぱなしが気になりますが、うまいカラスミのためです。 割り切りましょう。

※別に流水でなくたって、水に漬けておく時間を長くして、2、3度水替えをすれば、同じようなことだとも思いますし、経済的でもあります。 塩を使った分量や、塩漬けした時間 によっても、塩抜きの時間は変化してくると思いますので、その辺は実際作ってみて、体で覚えたほうがよいかと思われます。


日本酒に浸す

酒に浸す

塩抜きがすんだ真子の水気をよく拭いて、今度は日本酒に漬け込みます。 トレイに真子を入れて、日本酒をヒタヒタに注ぎ、上からキッチンペーパーでもかぶせて、冷蔵庫へ入れます。 およそ1週間程酒に浸しておきますが、途中で一回裏表をひっくり返したほうが、日本酒が満遍なく染み渡ると思います。

ブリのからすみ

天日干し

1週間酒に浸しておいた真子を取り出して、天気のよい日に天日干しをします。  真子の形をある程度手やガラス板等を使って平たく整えつつ、干します。 干す日数は、真子の大きさや、好みの仕上がり具合によっても違ってきます。 天気予報をチェックして、日の出とともに干し、日が沈みかけたらとりこむ。 日中一度表裏をひっくり返して、満遍なく太陽光線を当てます。

日が沈んで取りこんだ時、からすみの上にまな板でも置いて軽い重しにしておくと、皮がピンと張った、美しいカラスミに仕上がります。

天候にもよりますが、大体1週間ぐらい干すと食べごろとなります。 この辺は実際干してみて、試行錯誤を繰り返し、自分のベストの干し加減をたたき出すというのがポイントです。

右図では、3種類のカラスミを同時に干しております。 一番左は、塩抜きまで行い、酒には漬けずに天日干ししたもので、少し干しすぎて、表面に塩がふいています。

真ん中のは、血抜きをほとんどやらずに作ったもので、血管が黒く走っているのがわかります。 見た目は悪いですが、味はよいので、けずって、 カラスミパウダーを作り、からすみパスタを作ったり、ふりかけにしたりして楽しみます。

一番右のは、血抜きを徹底的に行い、手塩にかけて作ったからすみです。 これはよくできたので、皆で宴会をやるときまでとっておいて、食べます。


鯛のからすみ

唐墨完成

ようやく完成したからすみは、なんだか食べるのがもったいないぐらいなのですが、ガブガブ食います。 薄くスライスして、表面の薄皮を取り除いて、大根と共に食べたり、時にはブ熱厚く切ってつまんだり。

カラスミまるごと手づかみして、むしって食べるのが一番だとおっしゃるのは、長崎にあるからすみ専門店『高野屋』のご主人高野昌明氏です。 (美味しんぼで読みました)


鯛のからすみ

こちらは鯛のからすみ。 コンパクトなので、懐に忍ばせておいて、カブリッ。 とやるのもよいかと思われます。


カワハギ

こんなかんじで薄皮がはげます。 ちなみにからすみを炙って食べる場合は、はぐ必要はありません。


からすみのスライス

薄くスライスしてみた様子。 しっとりとしていておいしそう。


からすみのスライス

大根をカラスミと同じくらいの大きさに切って、いっしょに食べます。 こうすると、からすみが歯にくっつかないし、美味。


邱さん式からすみ

座右の書、邱永漢『食は広州にあり』にあった食べ方。 からすみをスライスし、炙り、ニンニクスライスといっしょに食べます。 広東では普通こうしてつまむそうです。

※邱さんの父上様はからすみをよく召し上がったそうです。 炭火をカンカンにおこした上で、パリパリと音が立つぐらい焼き、表面はきれいに焼けて香ばしくなりながら、中は熱くなった程度でなければならないそうです。 それを一分(約3ミリ)ぐらいに切り分けて、ニンニクスライスといっしょにつまみます。


からすみ茶漬け

からすみ茶漬け

買ったカラスミを茶漬けにするなんていう行為はなかなかできませんが、自作して豊富にからすみがあると、イロイロ試してみたくなります。 そこで、前々からやってみたかったからすみ茶漬を作ってみたいと思います。

まずは出汁をとり、薄口醤油、塩、みりん、酒少々で味をととのえます。


炙る

からすみを厚めに切り、軽く炙ります。


邱さん式からすみ

茶碗にご飯を盛り、海苔、小ネギを散らします。 炙ったカラスミを散りばめ、だしを適量注ぎいれます。 仕上げにワサビを少し乗っけて、すすりこみます!


高野屋からすみ

高野屋のカラスミ

長崎市内にある「からすみ専門店 高野屋」のからすみです。 プロの手によるものは、美しいですね。 公式サイトに、からすみに関する注記が書いてありましたので、引用しておきます。

からすみを長期保存する際、表面に白い粉が吹き出すこともありますが、これはからすみの中に含まれおりますアミノ酸で、決して品質、風味の変じたものではありません。 で拭くか、薄皮をはぐと白粉はとれます。 もし、切口が乾燥した時には日本酒につけると元にもどります。


ボラ:鯔

正真正銘のからすみというのはボラの卵巣で作りますが、ボラについて少し書きます。

ボラは出世魚で、海から川に入りだす3cm以下の幼魚をハク。  川や池で生活している3〜18cm以下をオボコと呼びます。  18〜30cmまでをイナ。 30cm以上になるとようやくボラとなるワケ。 さらに老成魚はトドと呼びます。

これ以上先はない、という意味の「トドのつまり」はこれから生まれたものだそうです。

エサを砕くために胃壁が発達していて、これがボラのヘソという珍味であり美味です。 そろばん玉みたいな形をしています。


からすみの粕漬け

まだ作ったことがないのですが、聞いただけで美味しそうなからすみの粕漬けの作り方をメモしておきます。

真子を日本酒に漬け込むまでの工程を済ませて、酒かす8、好みの味噌2の割合で混ぜ合わせ、酒と味醂を同割したものでのばします。  ちょうど味噌漬けのように。

それに薄口醤油を少し加えたもので、真子を10日程度漬け込みます。 酒かすをぬぐい、天日干しにして完成。


長崎の通人、林源吉氏のカラスミ談

長崎市本下町の高野 作重八代の祖勇助は、魚商の傍らカラスミの製法に秀で、正徳二年長崎奉行駒木根肥後守、大岡肥前守は、勇助が秘法を以て調整したカラスミの佳良なるを賞しこれを将軍徳川家宣公に献上、 爾来慶応三年徳川慶喜公大政奉還に至る迄百五十余年間、幕府の命を蒙り上納を続けた。

宮中に於いては尚古くよりカラスミの御用があったと推せられるが、天正十三年豊臣秀吉が、関白となって参内した時の食膳献立記録のうちにカラスミが載せられている。 そして宮中御用のカラスミは平戸松浦家から世々献上せられたとの説がある。

カラスミは酒の味を一段と芳醇たらしめ、大酔の後も悪臭を発することなく、酒毒を去り、邪気を防ぐなどの特長がある。

食用の際は、小口よりうすく切り二切れ位を一人宛として食するが、金気の移りをきらい食通は指先で折りとって玩味する


野母崎町の大岡吉蔵氏のカラスミについての一文

さてカラスミの製法だが、ボラの卵巣はよく洗ってオケにまき塩をして仮漬けされる。 約一週間ごとに取り出して卵巣についている汚物をていねいに取り除く。 それから前回よりも塩を少なめにして、桶に漬けこんでおく。

製品化する場合には、この塩漬けしたものを、淡水に浸して塩抜きして乾かす。 塩抜きの法に秘伝がある。 その日の気温、卵巣の大小、成熟度合によって、水浸け時間が違い、この度合が味の決め手。

塩抜きにしたものに重しをかけたら形を整えて乾かす。 北西風から北北東の風の吹く5〜7度位の気温のときが最適で期間も一週間から十日である。 その後部屋に入れ風乾する。

昭和37年11月23日付長崎新聞より


『幕末時代の長崎』より

野母鯔子(カラスミ)について:延宝年中、高野勇助ノ発明セシモノニシテ鯔ノ子ヲ乾シ墨ノ如ク固メタルニ依リ又唐墨トモ書ス野母ニテ製スルモノヲ尤モ逸品トス、酒客ノ嗜好スル佳肴ナリ。


カラスミ酢

本山萩秋 『飲食事典』 より

真ボラの卵巣を塩乾蔵したもので、旧幕時代には肥前野母の産が越前のウニ、尾張のコノワタと共に天下三珍と称せられた。

製法については卵巣の皮膜を破らぬ様に注意して、魚腹を切開し、 取出したるは丁寧に水洗いして一腹に対し精良な食塩六匁ー十匁位の見当で全面に塗り付け、三日ー六日タルに漬けてから取り出し、 一度水洗いして後、更に清水を満たした半切桶に投じ、一昼夜のちに水中で卵巣をもみ試み、 全体に同じ柔らかさになったら、ややこうばいのある板に並べて、上にも板を乗せて五段ぐらいに積み重ね、軽い重石をかけて水分を抜き、 翌日板に並べたまま日に干し、夜は取り入れて、ふたたび積み重ね、くり返し日に乾かすこと約十日位で仕上がるが、日干しにする際表面に斑点のないのが優良品を得る口伝だともいう。

おろし金でおろしたものに酢を混ぜてドロドロにしたカラスミ酢は、茶席のナマスに用いられる。


からすみの作り方

ボラ真子で作る本式です。


カラスミのツボ

  • 干している最中、猫やカラスになどに持っていかれないように注意が必要です。
  • 血抜きはしっかりと!
  • 干し加減はお好みで調節のこと。
  • カラスミの白ワイン漬けというものもあるらしい。
  • カラスミに使用されるボラは、11月〜2月に長崎県沖を産卵のために通過する個体に限られる。 だからわずかしか取れず、出来上がったからすみは、 100グラムあたり5000円〜10000円もする。
  • 日本には中国から承応年間(1652〜1655年)に伝来したと言われている。 伝来当初はボラではなくサワラの卵巣で作られていたとか。
  • マグロの卵巣でも作られる。
  • 台湾ではからすみを鳥魚子といい、12月〜2月にかけてとるそうです。
  • ぜひぎんなんとからすみもどうぞ!

おさらい

魚の腹から真子を取り出し、血抜きをし、塩をして冷蔵庫で1週間寝かせる。 そして流水で塩抜きをし、日本酒に1週間漬け込む。 最後に取りだし天日干しをして完成。 

05/08/09


*