知らない土地を歩くのは楽しいものです。 その土地に住んでいる人はたいてい「見るものは何もないよ」と言いますがそんなことはありません。 外から来た者にとっては、どんな所でも、必ず何か、面白いものや景色があります。
カメラ片手に歩いていると、すぐにメモリーは一杯になります。 そしてそうこうしているうちに、じき日が暮れてきます。
すると目に飛び込んでくるのは赤提灯です。
何件かの店の前を通り、そのときのフィーリングで選びます。 そしてちゅうちょなく中に入りますと、 たいていそこには近くに住む常連さんがいて飲んでいますから、その人たちの会話に聞き耳をたてたり、 ときには話の輪に入れてもらったりして楽しみます。
まさにこれが「大人の散歩」の醍醐味、やめられない理由です。
少し酒が入り、明日は休みとなると、そうオチオチ寝てはいられません。 夜の街を徘徊する楽しさといったらもう、昼とは全然別物です。
バーに入るにしても、クラブやスナックに入るにしても、 やはりフィーリングがあったところにドンと、ちゅうちょなく入ることにしています。
入った瞬間「やっちまった!」と思ったとしても、一度足を踏みいれたからにはしょうがありません。 そのままイスに座ります。
ときにはアジのあるママさんがいたりします。
この店のママは、尋ねてもいないのに、今65歳だと教えてくれました。 店をはじめたのは35歳からで、ずっとこの場所で営業をしているそうです。
そしてその前は何をしていたのかというと、魚屋さんで働いていたといいます。
朝の仕入れから魚をおろすことまで何でもやらされ、はじめのうちはとてもきつかったそうですが、 持ち前の明るさ、ド根性でじきに、いっぱしの魚屋さんとして活躍するようになったそうです。
「魚を上手におろすコツはな、こうだ!」
と先輩に手本を見せられ「あとは魚が大きかろうが小さかろうが、おろし方は全部同じだ!」という大雑把な教え方をされ、 売り物にならない雑魚で一生懸命練習したそうです。
だから今でも、キビナからブリまで、何でもおろせるといいます。
それにしても楽しい夜です。
あいにくお客さんが少なかったことで、ママとゆっくり会話を楽しむことができました。
「私の趣味は料理なんですけど、近頃作ってみたいなあと思うもので、煮干があるんです。 煮干でダシをとることはあっても、煮干そのものを作ったことはありませんからね。 聞くところによると、煮て干すから煮干だといいます」
そういうとママは、やっぱりそこにも詳しくて「塩水で煮るんだよ丸ごと。 エラも取らずに煮て干すんだよ。 だから煮干って目が白いでしょ。 煮てるから白いんだよ。 使うときは頭と内臓を取らなきゃダメよ」といいました。
「自分で作ることはできますかね?」と聞くと「煮て干しゃいいのさ煮て干しゃあ」ということでした。 こんな調子で語り明かしました。
地元長崎に帰り、魚屋をのぞくとイワシが沢山並んでいます。 今、長崎ではイワシが山ほど獲れているそうです。 トロ箱一杯のイワシがバカみたいに安いという話です。 まさに願ったり叶ったりの状況で、それを利用して一気に山ほど煮干を作ってみようとも考えましたが、 万が一失敗しては目も当てられないので、まずはごく少量のイワシを使い、煮干を作るテストをしてみます。
普通煮干にはいわしの小魚を使うのですが、イワシはイワシ、 たとえ大ぶりでも同じイワシに違いありません。 今回は、ごく普通サイズのイワシで煮干を作ってみることにします。
成功のあかつきには、大量生産をして年末の年越しラーメンに役立てることにしようと考えています。
さてイワシです。 とにかく「煮て干しゃええ」という話ですから、 何もせずに水でザッと洗って、塩水で茹でます。
塩水の濃さに関しては聞きませんでしたが、海水程度でよいのではなかろうか、と考えて、今回塩分濃度3.5パーセントの塩水を作りました。
イワシを丸のまま煮るなんて、 なんかとても悪いことをしているような気がします。 これだけ新鮮なイワシだったら、鰯の生姜煮を作ればおいしかろうなあ、 つみれや燻製にすれば肴になるやろなあ、 と思い浮かびます。 たとえ材料が安いものだったとしても、ムダにするべきではありません。 こうなりゃ必ずこのイワシを煮干に仕上げてみせます。
さて、イワシをグラグラ煮立ててしまっては、魚がこわれてしまいそうだったので、トロ火でしずかに10分程煮ることにして、芯まで火を通します。
煮たイワシをザルにあけ、水をきってから野外へ干します。 日が昇ると同時に干しはじめ、日が落ちてきたら室内に取り込む、 というようにして、10日間干してみることにします。
※煮たばかりのイワシはとてもモロいですので丁寧に扱わないと崩れます。
これは干してから3日目のイワシです。 まだ重たく、水分が残っていることがわかります。
そして10日間干したものが、ページトップの画像になります。 あいにく天候にも恵まれたので、10日も干せば、ガッチガチです。
試しにひとつ手にとってかじってみれば、あれほど柔らかかったものが硬くしまっていて、まさに煮干の味がします。 もう少し干してもよいのではなかろうか?という気持ちもありましたが、一刻も早く、自家製の煮干でダシをとってみたくてウズウズして、煮出してみることにしました。
煮干し出汁をとるときは、頭と内臓を取り除くわけですが、嫌いじゃないんですよね、丸のまま煮た時の「クセ」って。
ですから今回は、完成した巨大煮干を丸のまま煮出してダシをとり、ダイレクトな風味を楽しんでみようと思います。
しばらく煮ると、通常の煮干のようにアクが浮かんできますので、やはりこまめにすくいとります。 煮汁が黄金色になったところで一口すすってみます。
どうやら、普段使っている煮干と比べ、ダシの出が悪いようです。 といいますか、コクがいまひとつ足りないような気がします。
これは煮干の量に対して水が多かったからなのか、干し方が足りないからなのか、煮干がキングサイズだからなのか、 原因はちょっとわかりませんがまあ、ダシはとれたということで。
今回はこのダシで蕎麦を作る予定でありまして、ちょっとこれではパンチが足りませんから、前もって抽出しておいたアゴダシを注ぎ足しました。
あとはかえしとダシを合わせてかけ汁を作り、そばをススルだけです。 何の問題もなく美味しいかけそばです。
※手打ちそばは熟練が足りないので、今回は市販のそばを使っています。
以上煮干を手作りしてみました。 実は煮干を一匹だけ煮らずに保管しているんです。 常温でほったらかしておいて、 一体何日ぐらい日持ちするのかを現在実験中です。 ママさん、色々とありがとうございました。
11/02/11