すき焼きとは? 牛、鶏肉などに葱、焼き豆腐を添えて鉄鍋で煮焼きしたもの。 名の由来は、維新前、まだ獣肉食が嫌われていた頃野外で鋤(すき)の上に乗せて焼いて食べたからだとも、肉をすき身(薄切り)にしたからだとも言われます。
砂糖と醤油でまず肉を煮て、あとで野菜を入れて煮るという上方(関西)風のスキヤキと、東京(関東)風のように、ある程度肉野菜を一緒に入れて、割下という出汁、 醤油、みりんを合わせただしを鍋に入れて煮て食べる、というタイプがあります。
ちなみにウチでは、まずヘット(牛脂)をよく熱した鉄鍋にまんべんなく塗りつけ、肉を焼くわけです。 そしてあとは砂糖、醤油、みりん、酒で味付けをして、豆腐、春菊、シラタキ、白菜、ネギ、 シイタケなんかを入れて溶き卵で食べるというまあ何の変哲もない関西風スキヤキなのですが、「すき焼き」の焼きとはなんぞ? にこだわるのが東海林さだお先生です。
東海林さだおさんは著書『トンカツの丸かじり』の中でこんな風におっしゃいます。 すき焼きで最初に軽く肉を焼くのは、肉の旨味を逃さず肉の内部に閉じ込めるためだというわけではありますが、 じゃあ2回目に肉を投入する際にはどうなんだと。 だって一回目の際に関東風割下ないし関西風煮汁が鍋に入っているわけだから焼くことができないでしょう。 いきなり煮ることになるでしょうが。 と。
東海林さんはスキヤキはすき焼きと称しておりながら焼くのは一回目に肉を投入する際だけだという事実を暴いたわけです。 スキヤキは、どちらかというと「すき煮」なのです。 だから最初の肉焼きを追放しよう!とおっしゃいます。
さて肉を焼く焼かないはとりあえずこの辺にしておいて、池波正太郎さんが著書『男の作法』で語る池波風スキヤキを作ってみようではありませんか。
良い肉を使うか悪い肉を使うかで、スキヤキの作り方は違ってくると池波さんは書かれております。
良い肉の場合、まずは醤油、みりん、出汁で割下を作ります。 砂糖は使用せずにあまり濃くしないで。 そしてそれを鍋に入れ、バーっと沸騰してきたら肉を入れて、一呼吸して裏返し、火が通ったかどうかぐらいで食べます。 煮すぎてはイケナイのです。
はじめは肉だけを味わいます。 肉をあまり動かさず、サッと裏返す程度にしておくと、割下が濁らないのだとか。
そうしているうちに、だんだん割下に肉のエキスが混ざってくるのです。 そこで野菜を投入しますが、葱のみを用います。 池波風スキヤキの具は肉と葱のみなのです。 豆腐やシラタキを入れると、割下の加減が狂っちゃうんです。
葱はよくあるようにナナメには切らずに短めのブツ切りにします。 そして鍋の中に縦に並べます。
するとネギは巻いているのでその隙間から熱が上がってきて、柔らかくなるんです。 寝かすとなかなか火が通らないものなのです。
そして! なんと、肉を4、5枚食べたら割下を一度捨てます。 鍋をすすいで、新しい割下で初めからやり直す、というのが贅沢なスキヤキの食べ方なのです、さすが池波先生。
濃い割下で一緒に煮立てるのが一番だとか。
鍋が焦げ付くぐらいに甘辛く煮立てて食うのもそれはそれで良いと池波さん。
オイの場合、はじめの一瞬、池波風で楽しみましたが、どうにもこうにもネギが倒れてくるし、割下を一度捨てるなんていうマネはもったいなくてできやしなくて。 だからいつものスキヤキへと転身していったのです。 つまりゴッタ煮風ですね。
スキヤキなんてウマけりゃそれでイイんです。 いつものように溶き卵を用意して、ズルズルハフハフいいながら食べました。
具材が減ったらその都度足して、割下も足して、食って、最後に割下は煮つまり、鍋の隅っこに残る肉片や野菜クズをかき集めて白いご飯に乗せてかきこむ。 これ最強の一瞬であります。
ものの本には「肉とシラタキを隣り合わせて盛らないように」と注意書きされておりますが、これはシラタキには石灰のカルシウムが含まれており、カルシウムは肉を固くする性質と色を悪くする性質があるので触れあわないよう盛り付けたほうが無難なのです。
更新日:23/04/19
公開日:06/06/14