暖簾をくぐるなり美しい白木のカウンターがズイと店の奥まで伸びています、しかもコの字型で。
まだ17時前だというのに席は七割がた埋まっており、しかもひっきりなしに予約の電話が入っています。
それを上品な受け答えでさばいている女将は、美しい銀髪をまとめ上げてはいかなる苦難もカウンターと共に乗り越えてきました。
「わがまま銀行頭取」といった年季の入った常連達のイレギュラーな注文にも、まるで園児をあやす保育士のように大きな懐で応じています。
お客が帰ったらまずまっ先に、純白の固く絞ったおしぼりを握りしめ、自らせっせとカウンターを磨きます。
使い込まれて角のまったく無くなったその白木は、年季こそ感じられるものの、シミひとつありません。 手触りはまるで、絹。
「思わず見とれてしまいます」と女将に言えば、「ありがとうございます、このカウンターだけが財産です」とコチラに目もくれずにかすかな笑みを浮かべながら、ひたすら磨いておられました。
都内の「名酒場」と称される店にはほとんど足を運びましたが、どの場所でも共通してカウンターを大切にされておりまして。
それがお客にモロ伝わるから皆自ずと丁寧に接するようになり、それがまたそのカウンターの成長を促す正のスパイラルが生じておるワケです。
お客の質も高く、もはや店と同化しているような常連さんも無数におり、一見に優しくあれこれ世話を焼いてくれるのです。
「くりから」というウナギの首元も名物のひとつだと教えてもらい、早速注文してみるとあいにく売り切れで(開店間もないというのに)。
それを見ていた別の方が「でしたら五色いもを」と勧めてくれまして。
名前だけ聞いてもまったく不明ですよね。
楽しみにしながら熱燗を傾けていたら、運ばれてきたそれは「なるほど!」と食べる前から興奮させてくれるパワーがありました。
五色いもはつまり「五色+いも」が組み合わさった佳肴です。
つくねいもですね、これの皮をむいて丹念にあたり鉢にこすりつけキメ細やかにおろし、それに卵白を合わせて口当たりを滑らかにして艶を出しています。
いもを小鉢に入れたらタコ、ブリ、イカ、きゅうりもみ、イクラ(5品5色)を上に乗せ、中央に卵黄を落とします。
刻み海苔を散らして醤油をたらしたら、ザックリ混ぜてはスルスル掻き込みます。
今こうして書いていても、舌の両側がジンジンしてくるくらい旨い肴です。 もっとも、店ではブリでなくマグロを用いておられましたが、ここ長崎はブリ文化の地ですのでそうさせていただいております。
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21/01/02