料理の名著はもう読みつくしたと思っていました。
ところがまだまだあるんですね。
昨年末の事でした。 ぷちぐるを見てくださっている醍醐味さんより教えていただいた本で「吉兆」創業者、湯木貞一さんによる『吉兆味ばなし』全4巻です。
じっくり三か月かけて読了したところ「この本にもっと早く出会っていれば」という気持ちと「今だからこそ理解できた」という想いが交錯し、まさに「これぞ座右の書!」と深く感動しております。
本の中で全編にわたりくり返し何度も登場するたったひとつの料理がいい蒸しです。
事あるごとに湯木氏は「いい蒸し」「飯むし」と語られております。 それほどご自身にとって大切な料理なのでしょう。
余談ですけど読んでいてつい思い出したのが、若い頃に読んだ京セラの創業者である稲盛 和夫さんの『アメーバ経営』という一冊です。
興味深く読み進んでいたところ、次第にやたら文中に「アメーバ」という言葉が乱立するようになってきている事に気づいてしまい、とっさに「アメーバ」という単語が初めて出てきた箇所まで戻り「アメーバ」に黄色の蛍光ペンでラインを引いていってみると、後半のページは黄色だらけになり目を丸くした、という事がありました汗。
まさに稲盛さんとっての「アメーバ」は、湯木さんの「いい蒸し」と同じくらい、大切なものなのでしょう。
さて。
もうひとつ紹介するのはしゅうまいです。
さるミシュランのビブグルマンに輝いた京料理をベースとする居酒屋さんで、達筆な手書きの品書きを読んでいて目に飛び込んだのは「名物料理 しゅうまい」の文字でした。
「なぜここでしゅうまい?」
という疑問がすぐ持ちあがり、気になって注文せずにはいられませんでしたがオーダーから20分かかる力作だと言います。
いざ出されたしゅうまいを見て「そうきたか」とヒザを打ちました、皮で包むんじゃないんですね。
ところがいざ、からし酢醤油でつまんでみると、これといって名物といったゴージャスな味はせず、見たまんまの素朴な風味で感想としては「名物と謳う必要があるのだろうか?」というものでして、その他の料理の方がよほど気が利いていて美味しかったんです。
とても雰囲気の良いお店で料理も酒も店主も素晴らしいのですが、クセが無さすぎる店です。 優等生すぎるというか。 もっとなんちゅうかこう所々しつこさ、といいますかカドが立つ部分が必要だと思うんです酒場には。
そしてその後半月ばかりした時でした。 フとあのしゅうまいの事が頭をよぎり「面白いしゅうまいだったよな」という肯定的な感想が生まれ始めました。 ちょうどボディーブローのようにジリジリ効いてきたというか…名物だからと威張っていないんですよね、あのしゅうまい。
力んでないというか達者すぎないというべきか。 店主の心の謹しみがありますから静かです。 その代り落ち着いておって、素人が食べても瞬間特に美味しいと感じない。
ところが毎日眺めてはつまんでいると「しゅうまいはこうでなければ」という評価に変わってくる逸品だったという事に気づかされたのです。
もち米は用いる前に一晩水に浸しておいて、使う一時間前になったらザルにあける、というのが一般的です。
ひき肉は合挽きでも何でも結構です。 アレコレ加えず塩一本で調味するこの「潔さ」がイーですね。
塩を振ったらネバりが出るまでこねくりまわしたりせずに、ザックリと、まだボロボロまとまりがない程度に仕上げるのがポイントです。
どうしてか?
それが、かじった時の食感に大きく影響するからです。 外側のモッチリに対し内側のボソボソ。 これがハーモニーとなり地味に記憶に残る味になるんです。
もち米をまぶしつけた団子を蒸しますが、その蒸し器へは大根の薄い輪切りを置いて、団子を乗せます。 こうする事により、大根の甘味がしゅうまいに加味されるというワケです考えましたねしかし。
30分蒸します。 もちろん大根も美味しくいただけます。
程よい塩気がありますからそのまま丸かじりしても良いですし、からし+酢醤油でもやはりイケます。
今回プレーンで仕込みましたが、しゅうまいのトップへエビを乗せて蒸してみたり、季節の食材をあしらったりすると素敵です。
もち米の事前準備は同じです。 ザルにあけたら真ん中をくぼませて熱の通りをよくして蒸します。 50分蒸せばちょうど良いかと思いますが、食べてみて固いようなら水をパラパラ米に振って柔らかくなるまでさらに蒸します。
蒸しすぎるぐらいが美味しいんです。
蒸しあがったらボールにあけて、煮切り酒に塩を加えたものを振りかけてよく混ぜます。
あとは小茶碗にでもよそい、上に季節の食材等好きなものを乗せたらあと8分蒸すだけです。
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19/05/05