くだらない話をしながら深夜までドンチャン騒ぎをし、バッテリーが切れたようにそのまま寝、午前4時のビンタで目を覚まします。 「オイ、起きろ!出るぞ」
こんなに辛いこたあない、もっと寝ていたい、という気持ちを振り切り、軽トラの荷台に乗って出動します。
まだ寒い季節、あたりは闇、荷台で震えていると軽トラは急に止まります。 おもわず後頭部を打ちつけ、すこし目が覚めます。
ここは砂浜です。 闇の中波音をたてる海は昼間と違い、かなり不気味です。 砂浜を掘ると、キラキラキラと、プランクトンがまるでゲンジボタルのようにきらめきます。
砂を袋につめて、軽トラの荷台に戻ります。 3人の男たちは、家を出てからここまで一言も口を聞いていません。 会話不要、あたりまえの作業なのです。
次に後頭部を打つのは、エサ屋さんの前です。 エサをしこたま買いこんで、港へ向かいます。 途中いつも、上半身裸のおじさんが乗ったスーパーカブとすれ違います。
タップタップ波打つ船へ、躊躇なく乗り込みます。
船酔いなのか、それとも昨晩の酒がまだ悪さしているのか、気分が悪くなり始めたとことで小さな岩場に到着します。 荷物をかかえ、躊躇なく降ります。 そして3人を残し、船は去っていくのでした。
3人のうちリーダーが、エサと砂を秘伝の割合で調合し、秘密の団子を作ります。 もう一人は竿をのばしながら潮の流れを見つめています。 こんな真っ暗な中、 サングラスをかけた目でよくあたりが見回せるものです。 のこるオイは、やることがないのでポットに入れてきた熱々コーヒーをススリます。
準備が整ったようです。 竿を受け取り、秘密の団子で針をくるみ、「シュッ」と海原へ振り出します。 同時に柄の長い巨大スプーンで、まるで投石器のように「おとりのエサ」を団子の落下点周辺に撒き散らします。 ターゲットのいる所まで団子が無事に届くよう、 他の魚におとりを喰わせるのです。
・・・・・・じーっと、赤い浮きを凝視します。
浮きは波にゆられているだけで何の反応も示しません。 となりでリーダーの竿が虹のようにゆるやかなアーチを描きます。 そのとなりでもうひとりの竿が絵に書いたようにしなります。 そしてオイの竿にはまったく何の反応もありません。 おかしいなと思い、針を引き上げるとそこにはもう、団子の姿はありませんでした。 とっくの昔に食い逃げされていたのでした。
再び団子をつけて竿をたらします。 しばらくすると、やっぱり食い逃げされています。 そしてまた団子をつけて・・・と繰り返しているうちに、うっすら明るくなってきました。
何一つ視界をさえぎるものもない、大海原の岩の上でボーッと釣り糸をたらしているのは気持ちいいものです。 普段はなかなかこんなリッチな時間を設けることはできません。 もはや釣れる釣れないは二の次です、と思ったところで唐突に、浮きがスーッと海面から消えていきました。 「もしやこれは!」瞬間竿を引くと、ガツリとした手ごたえがあります。
急なことなので慌てふためいていると「よーし落ちつけ!」とリーダーの声。 教えられた通りにリールを巻き、竿を立て、糸を巻き取ります。 あわてながらも釣りの楽しさを体で感じる一瞬です。
水面から魚影が見えたところで大きな網を繰り出し、魚をキャッチします。
釣れた魚は・・・目当てのクロです!
とこのように、一時期ひんぱんに魚釣りに連れて行ってもらっていました。 釣れても、そうでなくても楽しいものでした。 釣れた魚は網に入れて生かしておいて、帰る際にシメてから持ち帰ります。
クロとは真っ黒い魚で、口にする前はちょっとこれは味としてはどうなのかな・・・と思っていたのですが、刺身で、味噌汁で、煮付で、どのように食べても美味しい魚でした。 あまりスーパーなどでは売られていないので目にする機会は少ないのですが、美味しい魚です。
近頃釣りから遠ざかり、クロの姿を目にすることはめっきりなくなりましたが、つい先日魚屋さんに丸々としたクロが置いてありまして、なつかしさ半分、味への期待半分で買って帰ったのでした。
これがクロです。 どうです、黒いでしょう。 黒いからクロといわれるそうで、本名はメジナです。 グレと呼ぶ地域もあるそうです。
三枚におろしてみると、脂がテッカリ光っていました。 こりゃ期待できます。 おろしかたは普通の三枚おろしです→魚の三枚おろし。
ところがどっこい、いざ刺身にしてみると、想像していた味とは違いました。 脂は乗っているのですが、今ひとつ、味が足りないのです。 もしかするとクロの風味を美化していたのかもしれません。
こういうときは煮切醤油につけてヅケにするとか、しめさばのように酢でしめたり、 昆布じめにする方法があります。 今回は気分的に昆布〆を選びました。 作り方は博多じめ、鯛の昆布じめをご覧ください。
切り分けてからつまむと、余計な脂が抜けて身がしまり、美味しく食べることができました(ページトップ)。
アラで出汁をとり、味噌汁をこしらえました。 申し分ない風味です。
タイの兜煮の要領で頭を煮付けました。
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10/05/21